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スカーフェイスのnoteのレビュー・感想・評価

スカーフェイス(1983年製作の映画)
4.7
ギャング映画の古典「暗黒街の顔役」のリメイク。ある男の成り上がりの物語と壮絶な死。
キューバ移民のトニー・モンタナはギャングの下っ端からやがて自分のボスを殺害。組織と彼の愛人を手に入れ、麻薬王へとのし上がる。
人種差別をもろともしないトニーのガッツは尊敬できるが…
しかし、客観的に見ればどこまでも劣等感を拭えないチンピラ。
演じるアル・パチーノの身長のせいもあるが、狼の世界に野良犬が1匹迷い込んだような姿は見ていて胸が痛くなる。

コカインで成り上がり、金と女と組織を手に入れても、家族や仲間を信頼できない姿は本当の一流とは程遠い。
それでも欲望に従順で、度胸があり、人間臭い魅力に溢れているが、男が惚れる任侠さはなく、そのことにトニー自身どこか気づいている悲しさが見え隠れしており、ラストの壮絶な死に様は、とても憐れなモノに見えてくる。

チンピラの頃、明け方の空に見たパンアメリカン航空の「The World is Yours(世界はあなたのもの)」という広告飛行船。
その言葉を座右の銘にして自宅のモニュメントにも入れるトニー。
金も女も全てを手に入れたが、心は満たされているように見えない。
トニーの行動原理は「舐められたくない」だけだった訳だが、結局トニーが真に求めていたのは周囲の尊敬や愛情だったのが悲しい。
唯一の武器である「舐められたくない」という価値観により全てを手に入れ、全てを失ってしまう。

公開当時はあまりの汚い言葉と暴力描写に批評家から酷評されたが、のちにファンが増え、いまではブライアン・デ・パルマ監督作品でもトップの知名度を誇るカルト映画となっている。
アメリカの移民たちはトニー・モンタナの欲望に忠実な生き方、飽くなき上昇志向、自分の信念を貫く唯我独尊ぶりに共感を覚えたのだ。
社会の底辺から人生の大逆転を狙うギャングスタ・ラッパーにも本作は大きな影響を与えた。
「オレの商売道具はガッツと信用だ!」
この作品は裏社会のアメリカン・ドリームの物語でもあるのだ。
トニーのスローガンは多くの移民に勇気と希望を与えただろう。
不良性が高く、いまだに危険で刺激的な輝きを発する稀有な映画である。
「成り上がり者」を描く映画で本作を超える作品は他にない。
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