すずき

ヴァルハラ・ライジングのすずきのレビュー・感想・評価

ヴァルハラ・ライジング(2009年製作の映画)
3.4
キリスト教の布教が進む時代の北欧のとある地方。
寒空の下、猛獣のように野晒しの檻で飼われる、隻眼の奴隷闘士。
彼の名は無いが、いくつもの対戦相手を屠ってきた最強の奴隷である。
ある日、彼は運と機転で自らの束縛を解き、所有者を殺して旅出つ。
それに勝手に着いていくのは、彼の世話係だった少年。
2人は聖地エルサレム奪還を目指す十字軍の一団に出会い、その旅に同行するのだが…

レフン監督のハリウッド出世作「ドライブ」以前のデンマーク映画作品。
北欧の至宝ことマッツ・ミケルセンを主演に、血生臭い地獄への旅路を描く。

CGや合成のレベルは昨今のハリウッド作品と比べて見劣りするが、やはりレフン監督らしい美意識に溢れた画作り。
未来を示唆する幻視シーンは、レフン監督十八番の真っ赤なライティングで禍々しい。
ゴアシーンも露悪的ではないが気合が入っており、エグい暴力をさらりと描く。

ストーリーは、隻眼戦士と少年の北欧神話を巡る旅を描くのかと思えば、十字軍との旅に同行し北欧から離れる事となる。
そして船に乗ってから、長い長い停滞。
いったい霧に包まれた変わり映えのしないこの航海はいつまで続くのか、と劇中の人物とシンクロして頭がおかしくなりそうな、中々挑戦的な脚本。
1時間半の映画だけど、2時間近く感じた。
このシークエンスの冗長さが評価が低い理由かもしれないけれど、私は結構好きかも。
そして聖地?にたどり着いた後半からは、更に地獄の様相を増し、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の「アギーレ」のような作品に。

最終的なオチの付け方は、ストーリーとしては嫌いじゃないけど、北欧神話っぽさは微塵も感じられない。
戦いを捨てた主人公は、ヴァルハラには行けないだろう。寧ろ、その自己犠牲の精神はキリストや釈迦に近い。
どう生きるかではなく、どう死ぬか、を最終的なテーマにしたのは、葉隠に書かれる武士道の考え方にも近い様な感じがする。
「ヴァルハラ・ライジング」とは言いながらも、その世界観は北欧神話とも宗教とも違い独特だった。
そういう意味ではレフン監督のマブダチ、アレハンドロ・ホドロフスキー監督作品にも似ているのかな。