コミヤ

歩いても 歩いてものコミヤのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
4.7
三度目の殺人に備えて是枝さんの代表作を鑑賞。

特に何が起きる訳でもない地味な2日間の夏の日の話。それでも一言ではとても表せないくらい密度が濃くて色々考えさせられてしまう。

シーンに全く無駄がない。どんな何気ない場面でも登場人物の人間性や関係を掘り下げる働きをしてる。

是枝監督が得意とする表情や微妙な動作だけで心情を語るという演出。登場人物達がそれぞれ何気ない台詞を言う時にその話者とは別の人を映すことでその人がどう感じてるのかという事を言葉に頼らず映像だけで表現するというまさに映画ならではの演出だけでかなり引き込まれる。素人の意見だけど演出力は世界クラスなんじゃないでしょうか?

食べ物を美味しそうに撮れるのは巨匠の証って聞いた事があるけど本作は料理シーンも凄い魅力。手元をアップで映して材料を切ったり剥いたりする何気無い動作とその音だけで見入ってしまう。

このように前半部はBGMも相まって穏やかに感じるけれど、段々と登場人物たちの胸の内や気持ちのすれ違いみたいなのが垣間見れてきてホラー映画を観てるんじゃ無いかってくらい怖くて目を覆いたくなる。「桐島〜」や「何者」観てるときの「もうやめてくれ〜」っていう感覚に近いかも。さっきまで楽しげに会話してた人が一方がいないところになるとその人の陰口?や不満をもらすシーンとか実際にありそうで観てられなかった。本当に人間不信になりそう。

樹木希林は樹木希林史上最恐の樹木希林で台所のシーンはトラウマレベルで怖い。クリーピーの香川照之みたいなサイコパスじゃない一般市民だからこそ身近にもあるんじゃ無いかと感じられてしまうからだと思う。このシーンは特に凄いけど作品を通して樹木希林の演技は演技なのか疑うレベルで自然すぎる。他のキャストも子供達(特に睦君)も含め全員演技が自然で、その点も監督の演出力の賜物だと思う。

でも観終わってみるとただ「人間って怖い」と思うだけでなくて、人間は全然完璧じゃないし不器用でどうしようもないところもあるけど、それでも生きていくしかない人間のそういう部分も肯定して背中を押してくれるし人間の素敵で愛おしい側面も見せてくれる。そんなラストに久しぶりに映画で泣いてしまった。

胸に刺さるような台詞も何個もあった。特に最後の阿部寛の台詞が1番刺さった。

まだ全てをうまく言葉にまとめられない。

死ぬまで見返したい作品。
コミヤ

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