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眠狂四郎 円月殺法のKumonohateのレビュー・感想・評価

眠狂四郎 円月殺法(1969年製作の映画)
3.4
亡くなった市川雷蔵の穴を埋めるために東映からレンタルされた松方弘樹は、雷蔵の当たり役を引き継ぐことになるが、その大本命「眠狂四郎」のリブート作。ただでさえ有名作のリブート(あるいはリメイク)はハードルが高いっちゅうのに、登場人物のキャラクターから主役を割り出すのでは無く、予め決まっているスターと作品とを合体させた本作の制作は、さぞかしスタッフやキャストにとってプレッシャーだったと思う。

その甲斐あってか、内容は悪くない。雷蔵版の弱点を改善し、良かったところを膨らませ、全体を劇画タッチで仕上げるなど、戦略的に色々考えられていると思う。にもかかわらず、やはり「雷蔵版に比べると⋯」と思ってしまう。「ニヒルでスレンダーで冷徹で情に流されない陰性の」という雷蔵狂四郎のキャラが刷り込まれてしまっているため、「クールに見せているが情に厚そうで血潮も熱そうで体格が良い陽性の」という松方狂四郎に、どうしても違和感を覚えてしまう。輪郭がハッキリした扇情的な演出も、それはそれでアリだと思うのだが、「雷蔵版のときはそうじゃなかったのに」と残念に感じてしまう。やはり「スターありき+名作ありき」には無理があったんだと思う。

それにしても、本作は演出や照明や音楽がテレビ的でわかりやすい。この時期(1969年)、既にテレビ時代劇の影響が映画に及んでいたからなのか、それとも、映画側が積極的にテレビを意識した結果なのか、興味深い。1970年前後というのは、大映の倒産や日活の路線変更だけでなく、内容面でも日本映画のターニングポイントだったのではなかろうか。
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