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PASSIONのKHのレビュー・感想・評価

PASSION(2008年製作の映画)
4.0
新文芸坐にて

濱口監督の東京藝術大学院時代の卒業制作作品。会話劇があまりに秀逸すぎて最早映画というより文芸作品なのではと言いたくなる。
調和を保っていたある男女混合グループのあるカップルがみんなに結婚を発表したことにより、そのバランスが壊れていく所からこの物語は始まる。
教室のシーンではホームルームで「暴力」について先生と生徒の対話が繰り広げられる。あまりに毒々しいこの会話は既にリアリティを通り越して、抽象世界のように感じる。そこでは、私(主観)と他人とは明確に隔てられている事が示される。
しかしその後始まる本音ゲームはこの映画の1番の見どころであり、与えられた質問に対して絶対に本音で語るというもの。そこでお互いが手探り状態で本音をぶつけ合う事で、存在していたはずの自己と他者との隔たりが失われる。そこには今まで調和を保っていた人と人との関係性は既に消滅しており、なぜ今まで君と付き合っていたのかとさえ疑問に思う始末に。行き場を失った話し合いは結果的に暴力へと向かう。

この映画の凄みは十分に伝わってくるが、何を伝えたかったのか問われると正直分からないし、人との関係において建前は大切だな程度の薄っぺらい感想しか今の自分には持てない。
それにしてもこの映画の評価の高さは少しカルト的な感じもするが、その秀逸な会話劇を観てしまった時点で濱口監督に魅せられてしまっているのかも。
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