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パンズ・ラビリンスのmarohideのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.0
 場面場面が強烈に印象に残る作品なのだが、全体を一本の筋として捉えると途端に曖昧模糊としてきて、観た直後の今ですら既に正確に思い出しにくくなっている。そういった意味で目覚めた直後に夢を思い出そうとしている時の感覚に似ている。

 何かを追いかける少女、与えられる試練、食べてはいけない食べ物など、どこかで見たような物語の類型が、それも割とそのままの状態でドバドバと入れられており、ユングの言うところの集合的無意識みたいな部分を直接揺すろうというような意図を感じてしまった。実際、一度も観たことがないはずなのに先がわかるというデジャブのような状態になる。
 ただ、個人的にはあまりにもストレートなのでちょっとずるいと思ってしまったり。そりゃあ印象にも残るでしょうよとやっかみを言いたくなる部分が。いや、ずるいことなんて一つもないことも頭ではわかっているのだが。

 おそらく自分の中でモヤモヤと引っかかっているのが「象徴性」の部分なのだろう。主人公を筆頭にファシストの父親や赤ん坊、異形のパンなどの人物・内戦時スペインという舞台・本や鍵といった小道具など、出てくるものの全てがシンボリックに過ぎやしないか。
 確かに物語の持つ力の根源はこの象徴性という点に集約されるが、それがあまりにも強いので「物語」というものの原液をそのまま出されたような気分になった。

 正しく辞書的な意味でのグロテスクに満ちた美術や展開は好ましかったし、何より繰り返し耳にする事になる“Pan's Labyrinth Lullaby”は文句なく名曲。
 好きか嫌いかで本当の事を言えば結局かなり好きな映画なのだと思う。ただなんかちょっと悔しい。
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