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遠い声、静かな暮しのROYのレビュー・感想・評価

遠い声、静かな暮し(1988年製作の映画)
4.3
家族の思い出とは美しいものですか。酷いものですか。

Time Out誌が選ぶ「イギリス映画ベスト100」では、第3位に選出されていた。ちなみに、第1位はニコラス・ローグの『赤い影』で、第2位はキャロル・リードの『第三の男』である。

■INTRODUCTION
イギリスの田舎町リバプールに住む5人の家族の歴史を描き、その愛憎を静かに浮き彫りにした作品。父への思いを描いた「遠い声」と息子の結婚までの物語「静かな暮し」の2部構成で、それぞれの場面は年代順に並べられずスケッチ風にインサートされる独特な作風。地味ながら強い印象を残す異色作。(ぴあ)

リヴァプールの労働者階級の一家の歴史を、40~50年代にかけての英国内のヒット曲を鮮かに挿入し、時には、家族や友人同志が唄う場面も作って、全体に陰うつなムード漂う作品世界の除湿をしている、不思議なホーム・ドラマ。『父の祈りを』でオスカー助演賞候補となったP・ポスルスウェイトの手のつけられぬ乱暴者の父を、それでも懐かしく回想する「遠い声」と、息子の結婚までの物語「静かな暮し」の二部構成で、それぞれが時間を追って語られない、ユニークな叙述法に最大の持ち味がある。(All Cinema)

■STORY
長女の婚礼の朝にこの家族の物語ははじまる。その時、父親はすでに壁にかかった写真の中と、家族たちの記憶のなかにしかなかった。子供たちの記憶のなかの父は厳格をとおりこして横暴ですらあった。ちょっとしたことでほんとうにすぐ怒る父だった。そんな短い記憶がいくつもフラッシュのようにはさみこまれていき、いさかいのシーンが繰りかえされる。それが逆に父の愛や家族のきずなの強さであったかのように…。(VHS裏面より)

■NOTE I(Time Out誌)
イギリス映画界には、労働者階級の物語を遠い視点から、無味乾燥なリアリズムで語ることだけに執着するアートハウス集団が存在すると思われがちである。確かに、罪を犯した者はいるが、そんな思い込みを吹き飛ばす映画作家がいるとすれば、それはテレンス・デイヴィスだ。彼の『遠い声、静かな暮し』は、間違いなく過去25年間で最も素晴らしいイギリス映画のひとつであり、今回の投票でもその判断は確認されたようである。現在、テレンス・ラティガンの『深く青い海』の映画化を編集中で、『The House of Mirth』(2000)以来の監督作品となる。

この激しく文学的で独立したリバプール人は、キャリアの最初の16年間を、3本の短編映画、そして2本の長編映画『遠い声、静かな暮し』と『The Long Day Closes』(1992)で過ごし、戦後のリバプールの労働階級の家庭での子供時代の思い出を、異なった、個人的で詩的な方法で理解することを発見した。『遠い声、静かな暮し』は、基本的に彼が生まれた頃の両親と兄弟のポートレートだが、デイヴィス自身はフレームから取り除かれている。そのため、1940年代から50年代のリバプールでの生活を断片的に、かつ忠実に再現したこの作品は、真実というよりも記憶に関するものである。家長(ピート・ポスルスウェイト)の残忍さ、娘の結婚式、パブでの歌声など、人生のさまざまな場面が出てくるが、映画の流れは時系列よりも感情的で、デイヴィスは単純なストーリーテリングよりも心に訴えるイメージや瞬間を好んで描いている。その歌は私たちを元気づけ、その悲しみは私たちを落ち込ませる。しかし、この美しい映画の一コマ一コマに感じられるのは、何よりもデイヴィスの映画への愛なのである。

↑「The 100 best British movies」『Time Out』2021-05-21、https://www.timeout.com/london/film/100-best-british-films

■NOTE II
MUBIの記事を翻訳してみました。(https://note.com/roy1999/n/n365bbf75be79)

■NOTE III(チラシ)

♪解説
『遠い声、静かな暮し』の監督は、テレンス・デイヴィス。との作品は、監督自身のなかにある家族の記憶がベースになっていることは明らかで、だから、彼の生いたちと彼の言葉が、この作品を観るうえでの良き案内役になるのではないだろうか。

デイヴィスは、1945年リパプール生まれ。この作品の舞台もリバプール。時代は1950年代。ちょっと意図的に脇道にそれれば、ジョン・レノンは1940年リバプール生まれである。デイヴィスは十人兄弟の末っ子だが、物語では姉がふたり、弟がひとりの三人兄弟。

作品のなかの父親はかなり横暴な人である。母も子も父に怯え、反発もしている。しかし、やがて、この父はその時代の男親たちの多くが多分そうであったように、ちょっと不器用なやりかたで、誰よりも家族を思っていたことが伝わってくる。

デイヴィスは言う。「この作品では、私の少年時代を形成し、基礎となった伝統的労働者階級の暮らしをていねいに描写しています。また、母や家族への敬意とともに、今では遠くなり、思い出のなかだけに生きている文化や暮らしへの敬意もこめて描いています」と。記憶をさしはさむような映像のフラッシュとともに、この作品をより印象深くしているものに、音楽の力がある。流れるのは『慕情』『ライムライト』『ポタンとリポン』など名作の主題曲など30曲。七才の時に嬉に連れられて初めて『雨に唄えば』を観てからずっとミュージカルに熱中していると語る監督にとって、音楽とは「父の死んだ後の私の子供時代を満たしていたもの」だったのだ。一時期、有名なキャバーン・クラブ近くのオフィスで、無資格の会計係をした経歴ももつ彼は、実に巧みに家族の物語と音楽の物語を時に微妙に重なりあわせ、時に対立させながら同時進行させていく。

テレンス・デイヴィス監督には、これまでに三部作を構成する三つの短編がある。これらは多くの批評家の絶賛を浴び、映画祭での受貫歴も多い。出演は、母親にフリーダ・ダゥウィー、父親にピート・ポスルスウェイト。このキャスティングはデイヴィス監督の強い希望だった。子供たものアンジェラ・ウォルシュ、ロレイン・アッシュポーン、ディーン・ウィリアムズらもとても印象的である。前半を1985年に、そして後半を1987年に撮影し、完成に執着したエピソードも、監督のこの作品へのなみなみならぬ情熱を感じさせる。

♪ストーリー
長女アイリーンの婚礼の朝にこの家族の物語ははじまる。その時、父親はすでに壁にかかった写真のなかと、家族たちの記憶のなかにしかなかった。子供たちの記憶のなかの父は厳格をとおりこして横暴ですらあった。姉のアイリーン、妹のメイジー、弟のトニーのなかに刻まれた父の記憶。それらはあまりいい思い出ではなかったが、祝いの日の父の不在は家族たちにとってやはり悲しい事実だった。1950年代のリバプール。ちょっとしたことで本当にすぐに怒る父だった。子供たちはおののき、反発もした。そんな短い記憶をいくつもはさみこむような語り口でこの家族の物語はすすんでいく。いさかいのシーンが繰りかえされるうちに、なぜか逆に父の愛や家族のきずなの強さが感じられていくようだ。

父が亡くなった後も、家族の物語は続いていく。子供たちはそれぞれに結婚をし、それぞれに家族をもつ。どの家族にも驚くほどの大きな事件こそはないが、ちょっとした理由のいさかいの芽はそににあった。メイジーの娘の洗礼の日。パブに集まって飲んで陽気に歌っている祝いの席でも、そんな芽のひとつがきっかけとなって涙を流す旧友もいた。トニーとメイジーの夫ジョージがガラス屋根を破って落ちていく事故のシーンが突然あらわれる。暗い病室に家族たちが見舞う。しかしこの恐ろしい事故も、家族の長い物語の緩やかな流れのなかにあっては、たくさんの記憶のなかのひとつなのかもしれない。

11月下旬よりお正月ロードショー!
「シネ・ヴィヴァン・六本木」

■惹句
50年代リバプール。イギリスの新星テレンス・デイヴィスが、家族の記憶を美しい映像と歌で描く待望の長編処女作。
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