Kuuta

セリーヌとジュリーは舟でゆくのKuutaのレビュー・感想・評価

4.0
2人で同じ夢を見るって凄い

「即興演技や偶然=ヌーヴェルバーグを体現する主人公2人が、ロジカルで旧態依然としたハリウッド的メロドラマを壊す」んだね〜ハイハイ、とぼんやり見ていたが、ラストシーンでジュリーもそもそも映画のキャラクターだった事を思い出し、一気に評価が上がった。直前の舟ですれ違う場面、ジュリー達がゾンビの世界に取り込まれていくようにも見える。

ヌーヴェルバーグも映画であって、現実ではない。ジュリーの映画が終われば、今度はセリーヌ側の視点に切り替わり、彼女は彼女で別の夢を追いかけ始める。そして次の物語は…とループが続く。

映画を見ている間だけは、自分の現実が誰かと共有できているという、幸せな錯覚をしていただけ。切ない話だがだからこそ、2人一緒に映画に入ってしまう終盤のひとときが、堪らなく貴重なものに思えるのだ。

冒頭の追いかけっこがとにかく良い。セリーヌは落とし物を受け取る気がないし、ジュリーにも渡す気はない。追いかける「意味」が消えているのに、幻想に手を引かれるまま、街の風景がどんどん映画になっていく。

梯子を登って夢へ。降りて現実へ。律儀にパンやティルトを繰り返す古典映画の世界と、ランダムに手ブレする現実世界。2人は最初はミスアンジェルと自分を同一化し、自意識を失っていた(文字通り気を失う)が、やがて客席からキャラクターを突き放して見るようになる。

舐めたいように飴を舐め、見たいように映像を見る鑑賞者。互いに入れ替わり、恋人関係や職場など、現実(という名の映画)をぶち壊していくが、好き放題やっても一切問題は起こらない。この時空には因果も社会もなく、バラバラで自由な物語だけがある。80点。
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