さすらいの用心棒

土俵祭のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

土俵祭(1944年製作の映画)
3.6
脚本・黒澤明。明治維新にともない相撲の人気が落ちてゆくなか、横綱にあこがれる若者(片岡千恵蔵)の青春スポ根ドラマ。

『姿三四郎』で監督デビューした黒澤明が脚色を手掛け、師匠の娘との恋模様や、宿命のライバルとの対決など、まさに相撲版『姿三四郎』ともいうべき内容になっている。のちに『羅生門』でタッグを組む宮川一夫がカメラを担当しており、靄のなかを窓からの日差しが貫く画や男女が座しているシーンなどはのちの溝口健二の作品のようでもある。
「勝ちさえすればいい」という悪役力士と、屈辱や失恋などの困難を精神のチカラで耐え抜く主人公の精神論的な闘いは、やはり戦時中の色が現われているところだろう。スポーツ映画だというのに登場人物のほとんどが静止しており、画的に見るとかなり退屈な作品ではあるが、各シーンで黒澤の筆による名ゼリフが光っているお陰で見ていられる。
別に相撲ファンというわけではないが、それにしても役者たちの相撲の形が自分のような素人でもわかるくらい酷い。いくらストーリーがしっかりしていても、ここぞというところで肉薄したシーンを撮らないと映画全体の説得力に欠けてしまうのがわかる。