こたつむり

ブルーベルベットのこたつむりのレビュー・感想・評価

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
3.5
田舎町における倒錯した性と暴力の物語。

「難解な作品が多い!」
という印象が強いデヴィッド・リンチ監督の作品ですが、本作に限って言えば取っ付きやすいと思います。勿論、不穏当な雰囲気と背筋が寒くなるような緊迫感は健在ですし、時折、気が狂いそうになる映像も仕込んでありますが…脚本に関しては“普通”に倒錯しています(言葉として変ですが)。

その中でも際立っているのが“視線”。
好奇心の赴くままに他人を“観る”主人公。
そして、画面を通して“観賞”する僕たち。
其処にあるのは“視線”という一方的な暴力。

だから、監督さんは。
とても解りやすく“好奇の視線”を投げ掛ける仕掛けを施します。草むらに落ちている耳。突然の闖入者に情欲する女性。暴力が振るわれている最中、車の上で踊る女性。それらに対して前のめりになるのか、或いは一方的な展開に忌避を感じるのか。試されている瞬間なのです。

また、物語の他の部分においても。
軸に在るのは“視線”。
クローゼットに隠れて覗くこと。
「見るな」と言いながら殴る男。
子供が居る部屋を注視する母親。
舞台に立つ歌手を視認したときに演者が消える瞬間…。

つまり、本作は“観察”の物語。
それゆえに物語が着地する瞬間に意義を失う作品でもあります。語弊を恐れずに言うのならば、大切なのは“結果”ではなく“経緯”。つまり、観賞中に抱いた感覚がもっとも大切。だから、観終えたときの感慨や余韻に期待すると裏切られるかもしれません。

まあ、そんなわけで。
リンチ監督にしては解りやすい作品でしたが、もしかしたらそれは、監督が僕たちを“観る”ためなのかも。複雑な“観察”は複雑な結果をもたらし、時には失敗しますからね。実験するときはモデルを平易化したほうが良いのです。個人的には『ツイン・ピークス』の続編を心待ちにしている我が身を観察してほしいのですが…。あー。本作のカイル・マクラクラン若かったなあ。続編、早よ!

最後の余談として。
本作については『最強映画ミステリ決定戦』というムックで紹介されていましたが…。うーん。本作を“ミステリ”として捉えるならば、人間の闇に焦点を当てた映画は全て“ミステリ”の範疇になりますね。“ミステリ”という言葉を映画界では広義に使い過ぎる気がします。
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