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怪人マブゼ博士/マブゼ博士の遺言のtakのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

大学生だった1985年。熊本市の博物館でドイツ映画の上映会があり、サイレントからニュージャーマンシネマまで新旧の作品が上映された。履修していたドイツ語の先生がこのイベントに関わっていて、授業で紹介されたので観に行ったのだ。先生はサイレント映画や日本語字幕のない作品の上映時に、スクリーンの脇に字幕の日本語訳を別なプロジェクターで映す係だった。タイミングとか考えてもなかなか大変な役割。

そのイベントで鑑賞したのがフリッツ・ラング監督初期のトーキー映画である「怪人マブセ博士」。サイレント時代にも撮った「ドクトル・マブセ」の続編にあたる作品。今思うと、これをスクリーンで観るなんてとんでもなく貴重な機会だった。

狂人となって精神病院に送られたマブセ博士。彼は遠隔催眠で病院長を操って、犯罪計画を次々と実行する。その事件を追う警察は、犯人をなかなか見つけ出せない。ついにマブセ博士の手によるものだと知るのだが、博士は病院内で死亡。その後、医局員が院長の怪しい行動に気づくのだが、彼はマブセ博士が率いる組織に殺されてしまう。

警察は組織に踏み込むことに成功するのだが、そこで見たのは狂人と化した院長の姿。そして院長は自らを名乗る。
「自己紹介しよう…」

そう来たか!いやもう、ゾクゾクする恐ろしさ。アメリカじゃチャップリンが活躍していた時代だぞ。こんなスリラーがあの時代に!と、若造はカルチャーショックを受けたのでした。

この映画の製作当時のドイツは、ヒトラーが政権を握り始めた時期。マブセ博士の催眠に、ヒトラーの国民を煽り立てる姿を重ねたと言われる。だけど、スリラー映画としての巧さに、社会的背景はもはやどうでもよく感じる。
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