水

ダンサー・イン・ザ・ダークの水のネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

2、3年前から観なくてはとは思っていたけれど、後回しにし続けて、年末に滑り込みで覚悟を決めて観た。
観ないわけにはいかなかった。
目を逸らすことはわたしに許されていない気がしたから。

年末に観るものじゃなかったな。
3日は引きずる。
今はただ世界が憎い。
でも上書きしたくはない。
わたしにこの映画を好きと言う資格はないけれど、わたしの人生にとってすごく大事な映画であることは確かだった。

セルマの善行すべてが彼女にとって悪い方に働くのが辛かった。
優しくて弱い人が搾取される世の中なんて嫌だと泣き叫びたくなる。
誰が完全な悪とも言えないけれど、セルマだけは最初から最後まで正しかったのに、1番最悪な結末を迎えたのは彼女だった。
現実とは道徳の教科書に則って作られているわけでもなく、時間はただ無慈悲に進んでいくばかりだ。
わたしはこんな世界で生きているのか、これからも生きていかなくてはならないのかと涙が枯れるまで考えた。

処刑の瞬間まで逃げずに映したことに拍手を送りたい。
逃げてほしいくらいだったが、現実を一身に浴びられる映画はなかなか無いので、いい機会だった。
死をこんなに丁寧に映す映画、わたしの記憶にある中ではこれが1番だと思う。
人間として一番正しくて美しい死だった。

自ら死刑を選んだ彼女でさえ、死を前にして恐怖を露わにしているのを見るのは、辛いとかのレベルではなかった。苦しいの方が合っている。
恐怖に近い。

手ブレが目立つカメラワークさえも、セルマの視界の不確かさみたいなものを表しているようだった。

彼女が思い通りにできたのは自分の気分くらいだった。
欲しい言葉をくれる歌なんて自分の中にしかないのだ。
彼女が歌い出すと、現実ではすごく良くないことが起きているのではないかという不安に駆られる。
セルマには歌は救いでも、観ているわたしはセルマが歌うたびつらかった。

現実の前では、優しさも愛も真実さえも歯が立たないことがある。
優しさは偽善であることもわかっている。
それでもわたしは優しい人が報われる世界のために苦しくても生きなくてはと思った。
水