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しとやかな獣のKuutaのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
4.2
団地にどれだけ面白くカメラを置けるか選手権。洲崎パラダイスもそうだったが、日本の建物の特性を使って日本人を描いているのが良い。

・「雨漏りするバラック」から抜け出し、当時の先進性の象徴であった団地生活を送る主人公一家。しかし、その実態は、至る所に「覗き窓」が点在した穴だらけの空間であり、「染み付いた貧乏」はカーテンや襖を使い、穴を塞ぐことによって隠蔽されている。

終盤、降り出した雨に母は窓を閉める。雨漏りは起きない。しかしながら、雨が止んで窓を開けた母親は、家族に降りかかった決定的な「落下」を目撃する。

・開け放たれた窓や玄関。ビールの行ったり来たりや襖の開閉、椅子の有無など、洋室と和室を使い分ける日本的な生活スタイルが描かれている。彼らは都合よく顔を切り替え、穴を隠す事で金を稼いでおり、その極地が和室でご飯を食べる両親を尻目に、姉弟が2部屋を行き来しながらダンスするシーンだろう。

ベランダという「檻」や冒頭のインチキジャズシンガーに顕著なように、彼らは狭い箱に閉じ込められ、せせこましく騙し合っているに過ぎない。中盤の若尾文子は欺瞞を振り払うように襖の仕切りに立ち、空間を占有する事で家の主導権を握る。

・階段に象徴される上下関係と欲望、家族の連携で金を巻き上げる姿はパラサイトそっくりだ。あの映画では家族が自らの絶望的な立場を理解し始める事が、悲劇の一端となっていたが、今作でそこまで到達している人物は誰だろうか。登り続けた先の死を知り、階段を引き返した若尾文子の表情、あるいは全てを包括するような母の最後の不穏さであろうか(パラサイトの元ネタであるキム・ギヨン「下女」の女っぽくも見えた)。

・ラストショットが素晴らしい。現実の晴海団地をモデルとしている以上、同じ間取り、同じ生活様式で暮らす人が実際にいる事、こんな風に「穴を塞ぐ」ハリボテの日本人が今なお量産されている事を示唆する。後に晴海団地は取り壊され、オフィスビルに変わるのだけど、そこに拠点を構えたのが東京五輪組織委だった、というのも歴史の皮肉を感じる。84点。
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