コマミー

風が吹くときのコマミーのレビュー・感想・評価

風が吹くとき(1986年製作の映画)
3.9
【その生活は一瞬にして】





いやぁ…見れて本当に良かった作品だったが、同時にトラウマになる程、辛い作品でもあった。

"核そしてそこから発せられる放射能"の恐怖を、作者の"レイモンド・ブリッグス"らしい優しいタッチの絵柄でありながらもじわじわと描いているのがとても衝撃であった。
そして、核が落ちる前と落ちた後…"2つの世界"で見る、のほほんとした夫婦の会話がまさにこの世界の違いで大きく異なるのが尚更怖いと感じた。
少し戦争を肯定する傾向がありながらも、準備や注意喚起、そして妻の"ヒルダ"を気遣う心を忘れない夫"ジム"。世界情勢に一切関心なく、それよりもカーテンが汚れたり、洗濯物の心配をしたりする家事熱心な妻ヒルダ。
この2人に対して最も負担となるのは、放射能もそうだが、何よりも眼前の危機に対して"無知"である事が何よりも負担であり、我々が恐怖すべき事なのだなと感じた。2人の所作や会話に多少「おいおい…」とツッコミ、若干イライラしながらも、よくよく考えると何よりも無知が1番怖い事なのだなと感じ、勉強になった。本当にそれも含めて、戦争は人間を蝕む凶器なのだなと感じている。

そして本作は、技術が追いついてないのか途中"実写シーン"もちょくちょく出てくる。冒頭のドキュメント映像と爆撃後の家の中の瓦礫のセットのようなもののシーンだ。このシーンもとても味があって良かったし、凄惨さがリアルに伝わってくる。このアニメーションと実写の混合が、あえて凄惨さが伝えられた重要な瞬間だなと感じた。

本作で私たちが、恐怖の中で学ばなければならない事は「なるべく知識を得て、共有する事」だなと感じた。それは、戦争だけではなく、近頃増えている地震など災害にも言える事である。
恐怖をただ伝えるのではなく、「私たちは今後どうすればいいのか?」を常にセットで伝え、学ぶ事によって、より良いものになっていくのだと感じた大変価値のある作品だった。

本当に、本作をスクリーンで見る事ができて光栄な瞬間であった。
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