そんなに期待してなかったがかなり面白かった。なぜかムッシュユロが出てるとのことで昔観たときはナンジャラホイだったのだけど、今回は馬鹿馬鹿しさをも包摂する温かさ奥深さすら感じられたのはひとえにクロード・ジャドのクリスチーヌという役、賢くてあっさり切り捨てて情にほだされないけどちゃんと優しさと寛容さをみせる妻の役がよかったからかもしれない。「クリスチーヌ、君は妹で娘で母でもある」て一番言っちゃいけないドワネルの台詞に怒らず「私は妻になりたかったわ」と返すクリスチーヌ。
ドワネルはドワネルだからまあそんなもんだよね、となると悪役?に全振りされるのは滑稽なオリエンタリズムを一身に背負わされた松本弘子演ずるキョウコで、でも最後に一発かますところでとりあえず。にしても日本語で「勝手にしやがれ」と書かれたメモをva te faire foutre (クソ喰らえ的な意味か)と訳されて割と合ってはいるけど、それでゴダールのbout de souffleが日本では『勝手にしやがれ』だったことをフランス人は連想できたんだろうか?それともシネフィルならわかるんだろうか。
ヌーヴェルヴァーグでありながら詩的リアリズム映画さながらのアパルトマンの人々がいて、管理人が子守りをしてくれたり常連しか来ない酒屋で噂話したり隣人と窓越しに井戸端会議したり、そんな下町情緒ある場はアントワーヌ・ドワネルが生花を色んな色で染めて商売しようという馬鹿馬鹿しさも包摂する。それとムッシュユロ(あれ本物のジャック・タチだよね?)が登場する以前に、特に前半の音遣いは明らかにタチ作品を意識してる。ジャン・ユスターシュにドワネルが電話するというくだりといいムッシュユロの登場といい散漫な小ネタもまた愛おしい。
アントワーヌ・デュアメルの劇伴もとてもよかった。あとやっぱりドワネルもののスピード感ある編集が好き。