青山

柔らかい殻の青山のレビュー・感想・評価

柔らかい殻(1990年製作の映画)
4.0

とある田舎の村に住む少年セスは、友達と一緒に村に住む未亡人にカエル爆弾を仕掛ける。そのことが母親にバレて未亡人に謝りに行くことになったセスだったが、彼女との会話から、彼女のことを吸血鬼だと思い込んでしまう。やがて戦争に行っていたセスの兄が帰還し、未亡人と恋仲になる。一方、村では子供を狙った殺人事件が起き......。


書評家の千街晶之氏がオールタイムベスト映画として挙げていたのを見て知った本作。
ずっと前にそういう経緯で観たんですが、その時から大好きでなんかもっかい観たいな〜と思ってDVD買っちまいました。
というわけで2回目観たんだけどやっぱ最高だわ。好き。

冒頭、舞台となる田舎の村の金色の畑と青い空がだだっ広く広がる光景の美しさに目を灼かれていると、主人公が仕掛けたカエル爆弾が炸裂して美しい景色がカエルの血の赤に染められるそのSHOCK!そんな冒頭の演出がカッコ良すぎて掴みはOKすぎるし、そのインパクトで強烈に引き込まれるからこそ本編は地味っちゃ地味ではあるけど常にゾワゾワした気持ちで観られます。
主人公セスがなんか坊ちゃん刈りみたいな感じでめっちゃ可愛らしい顔してるので、それだけにその残酷さに戦慄してしまいます。とはいえ別にサイコとかそういうんじゃなく、子供特有の無垢さからくる残酷さなので、たぶん誰でも多かれ少なかれ身に覚えがあるんじゃないかな?

しかし、村に住む未亡人が吸血鬼だと思い込んでからはその無邪気さ故にどんどん思い込みを加速させていく様が描かれていき、セスの主観からすれば吸血鬼の正体を暴こうとするホラーミステリみたいなお話になっていきます。
だけど周りの大人たちはセスがそんな勘違いをしていることなどいざ知らずで、かれらはそれぞれ戦争のトラウマや夫を失った喪失感に苛まれていたり、貧しい村での暮らしに嫌気が差していたり自身のうちにある罪深い気持ちに慄いていたりと、どん詰まった日々を生々しく暮らしている。その子供と大人のグロいまでの視差がやがて洒落にならない事態へ突き進んでいく予感のその不穏さだけで突き進んでいくお話なわけです。
そもそも映画に出てくる子供ってやたら賢くて大人びてたりしがちだけど、セス君はもうどうしようもなく子供で、なんも分かってない。そのことにイラついてしまうヴィゴ・モーテンセン演じる兄貴の気持ちとかもめちゃ分かっちゃうし(うちも弟と4歳違うので子供の頃はそんな感じだった)、でも子供なんだからなんも分かんなくて当然だよなとセスが可哀想にもなるし......。私も子供の頃なんも分かってないせいで親に「将来人殺すんじゃないか」とか何故かサイコパス扱いされてたんで。今思えば笑っちゃうけどさ。

そして映像もそんな物語と同じく、リンチ風の白昼夢的な怪奇幻想味と貧しくて退屈な生活の臭いとが両立されたシロモノになってて、そのギャップが本作に独特の味わいを与えていて、それこそDVD買ってまでもう一度観たくなるような独自性を放っています。
また監督は作家や画家としても活躍するマルチアーティストらしく、シンメトリックな構図も多くどこか人工的な映像や明るいのに不穏な色彩感覚なんかも激カッチョよくて、それこそどの場面も絵画として家に飾っときたいくらいでした。特に吸血鬼おばさんの家の景色、火事のシーン、そしてあの印象的なラストシーンはインパクト大。火事のシーンでアレがだいぶわざとらしく男根のメタファーになってるの笑った。
(ちなみに監督の小説も邦訳されてるのがあったのでポチってしまった)

そんで結末が予想してたのと違ったんだけど、たぶんあえて伏線を仕込んで予想させておいてそれを回収せずにより現実的な絶望のある結末にしてる感じがしてその意地悪さにも惚れてしまう。
そんな感じで、けっこう偏愛していると言ってもいいヘンな映画なので、変な映画好きの人にはめちゃくちゃオススメです!
青山

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