映画漬廃人伊波興一

青春の夢いまいづこの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

青春の夢いまいづこ(1932年製作の映画)
4.4
傑作『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』の後に低予算で急拵えで撮られたとは思えぬ安定度です。小津安二郎『青春の夢今いずこ』

映画監督を目指している若い知人が(これくらいなら俺でも出来ると思う)と言ったので私は
(ではどんどん撮って欲しい)と申しました。
さらに(この水準の演出が出来るなら今でもプロとして充分にやっていけるよ)と付け加えました。

当時の大スター、ウィリー・メラー(即ち江川宇礼雄)の頓狂な魅力を打ち出し、まだ初々しい田中絹代、斎藤達雄をしっかりとした引き立て役に回し、映画に不可欠な(走り去る列車)で幕を閉じる、という当時29歳の若さにしての円熟味。
前作『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』という性喜劇を世に出したほどの小津なら驚くに当たらないかもしれませんが、やはり劇中の小道具から登場人物の心の機微を現す手慣れ技を観ると当時の彼の年齢が想像つきません。

前述の私の若い知人は今年の初めに20分程のビデオ映画を撮って私に観せてくれました。
空に舞い上がるバレーボールに結局は実らぬ初恋への苦い思いを託した、なかなか抒情的な短編でした。

『自分で撮って、小津さんの映画なんか遥か雲の上だと分かった』と私に言いました。

彼を含めた映画監督を目指す若い方々に一本でも多く、そして深く小津サイレントを観て、(現代形の日本映画)を模索して欲しいと願います。