ラグナロクの足音

ルル・オン・ザ・ブリッジのラグナロクの足音のレビュー・感想・評価

ルル・オン・ザ・ブリッジ(1998年製作の映画)
2.4
ひでぇファンタジーラブコメ。額を撃ち抜かれた男が路上に倒れていた。これだけでも異常だ。傍らのカバンに石の入った箱が落ちていて、持って帰ったイジーは暗闇でその石が青い燐光を放つのを見る。わけがわからないがイジーは大切にしまいこんだ。石と一緒に電話番号の書いたメモがあり、電話すると受けたのがセリアだ。会って話した途端、イジーは恋に落ちる。青い石には神秘な力でもあるのか。イジーは「力がみなぎり、自分自身やこのテーブル、部屋の空気、すべてのものに、あなたにも強い絆を感じる」。そうそう、イジーはクラブでサックスを吹いていたとき、乱入してきた男が銃を乱射して右肺を撃たれ、サックスが吹けなくなった。男はその場で自殺した。音楽が命だったのに、以来イジーは失意の人生だった。そこへセリアと巡り会い、生きる気力を取り戻した、ということか。結論をいうと、この映画は「夢オチ」で、撃たれたイジーが救急車の中で息をひきとるまでの「一睡の夢」が、セリアとともに過ごした時間だった石も青い光も、正体不明の博士も幻想。劇中イジーとセリアが交わす愛のセリフ。「君と暮らしたい。君のために死にたい」とイジー。「小さいとき、妹とやったゲームがあるの。わたしが聞くから答えて。あなたは川か海か」「川だ」「あなたはマッチか、ライターか」「マッチだ」「あなたは自転車か自動車か」「自転車だ」「フクロウか、ハミングバードか」「フクロウだ」「スニーカーかブーツか」「ブーツだ」。なんとなく答える人の人物像が明らかになっていくのが面白ですね。イジーが聞く。「君は精霊か、人間か」「人間よ」「恋しているか、いないか」「恋しているわ」「恋する相手といるか、いないか」「いるわ。あなたといる」「セリア」「もう一度いって。素敵な呼び方だわ」「君と一緒にいる。それが俺の仕事だ。皿洗いだってなんだってやるさ」。セリアは女優を夢見る駆け出しで、普段はウィトレスをしている。同じ店にイジーはウェイターとして勤める。オーディションの返事が来る。合格したばかりか、主役のルルに抜擢なのだ。セリアは撮影のためダブリンに行く。イジーと片時も離れたくない。部屋の後始末をしたら「俺も行く、一緒に暮らそう」とイジー。「3日後には会えるわね」とセリアはタクシーから身を乗り出し、手を振って別れた。そこへ押し入ってきた屈強な男たち。監禁されたイジーは、ヴァン・ホーン博士と名乗る男から「光る石」の在り処を聞かれる。持っているのはセリアだ。危険が及ぶのを恐れてイジーは知らないと答える。何日待ってもイジーから連絡のないセリアは悲嘆にくれ、ダブリンにきた博士らに追い詰められ、川に身を投げる。主役が自殺し映画は製作中止、プロデューサーから経緯を聞いたイジーは涙にくれる。場面は一転、クラブで倒れているイジーに移り、救急車に担ぎ込まれる。しかし搬送の途中でイジーは死に、救急車はサイレンを鳴らすのをやめる。通りを歩いていたセリアは、サイレンを止めた救急車を目で見送り、立ち止まって十字を切る。キレイな幻想なのだけど、イジーとセリアの生前の関係がわからないから、つかみどころがないわ。どうせ夢なら幸福なまま死なせてやればいいものを。劇中のヴェネッサがいいますね、芸術はだれの心にもあるものをどう表現するかだと。その通りだわ。それが、セリアは身を投げイジーは悲しむ、トドのつまり人生は虚しいって、あんまりフツーすぎるわ。たった一つマシだったのは、イジーとセリアが唇を触れ合わせたまま、ささやくように言葉をかわすシーンね、幸福そのもののふたりがよく表れていた。
ラグナロクの足音

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