むさじー

按摩と女のむさじーのレビュー・感想・評価

按摩と女(1938年製作の映画)
4.0
<温泉場の按摩の恋は切なく>

山の温泉場に来た按摩の徳市は、客になった東京から来た謎の女に惹かれていくが、女は別の宿に泊まっている少年やそのおじさんと交流をもつようになり、目の不自由な徳市はヤキモキする。そんな折、近隣の旅館で次々に盗難事件が起きて警察の捜査が入ったと知った徳市は、女が犯人だと思い込み匿おうとするが‥‥。
温泉場の按摩、訳あり風の美女、甥を連れた紳士。女と少年を軸にした束の間の交流が生まれ、それぞれに何かを期待するのだが実を結ばずに離れていく。按摩は勘違いした上に女に思いを告げるが、女の真の苦しみを聞かされて自身の浅はかさを知り、紳士と女はお互いほのかな好意を抱いているのだが、今一つ積極的になれない事情を抱えていて、やむを得ず自身の世界に戻っていった。舞台は情緒溢れる山あいの温泉場で、旅先のゆきずりの思いはその場限りのものというかのように、淡い関係は儚く散って切なさだけが残る。
それでも主人公・徳市は明るくて前向きで、“目あき”への対抗意識が強く、不自由なはずなのだがそれを感じさせない軽妙さを持っている。子役の大活躍を含めて、監督の弱者や子どもに対する優しい視線のように思えた。
また、高峰三枝子がとにかく美しい。凛として陰りと色香があって、当時20歳とは思えない大人の雰囲気を持っている。傘をさして佇むショットは一幅の美人画のようだった。戦前の映画なので画質は良くないが、カメラワークや構図の映像センスは決して古さを感じさせないことにも驚かされる。
そして、オープンな雰囲気の温泉宿や乗り合い馬車など、描かれる時代の空気感は心地良く、優しさとしみじみとした情感が漂っていた。
むさじー

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