ちろる

野良犬のちろるのレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
4.0
若き三船敏郎と志村喬の元祖バディ刑事ドラマ。
新任警察官である主人公がうだるような暑さの満員バスの中でコルトを盗まれてしまう失態から始まるこの物語。
犯人を、追いかけて当時の東京の街中を走り回るシーンはその疾走感だけでなく貴重すぎる景色だけでも十分楽しめる。
ストーリーは至ってシンプルなのだけど、何より印象的なのはこの作品の夏の暑さの表現力の凄さ。
これを観ているのは秋なのに、それでも画面からうだるような東京の暑さが画面から伝わってきて、この作品を思い出すとそれが真っ先に感覚として蘇るからすごい。
きっと今年のあの猛暑の中観たらもっと、もっと入り込めたのだろう。

サスペンス色よりも、戦争という魔物によって人生を狂わされた若者と、その悔しさをバネにした若者の対比を軸とした、ヒューマンドラマの側面が強かったが、戦後すぐのあの時代にならではの空気感がこの物語にリアリティと重厚感を与えている。
生々しい夏の匂い。
荒廃した東京の街。
そして血走ったような瞳とエネルギッシュな若き刑事を演じた三船と、何もかもを達観したような穏やかなベテラン刑事志村喬のコンビのバランスの良さ。
これらのどれか一つでも違っていたら面白くはならなかったのかもしれないと思うほど、緻密に計算し尽くされた作品に感じた秀作だった。
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