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都会のアリスのemilyのレビュー・感想・評価

都会のアリス(1973年製作の映画)
4.1
旅行記を執筆するためアメリカを放浪してたドイツ人作家フィリップが帰国のため空港に向かうが、ストにより飛行機は飛ばない。そこでアリスと母親と出会うが、母親が置手紙をして消えてしまう。待ち合わせの場所のアムステルダムにも母親は現れず、今度はアリスの祖母の家を探し、二人は旅を続ける。


物語はシンプルであるが、何気ない会話の表情や自然な二人の寄り添いを共有に、気がついたら二人の世界観の虜になっている。

見たままの写真が撮れない、自分を探す旅に答えは見つからず、逆にどんどん自分を見失ってしまっている男。カーラジオから流れる音楽や壊れたテレビの音が寄り添い、モノクロの映像に辛口に溶け合っている。

アリスとの出会いがコミカルで印象的である。フィリップの優しい笑顔をここにきて始めてみることになる。回転ドアの二人の出会いはそのまま雰囲気を引っ張っていく。出会ってすぐのフーっと息を吐いたらライトが消えちゃう演出もアリスの目線に寄り添った彼の優しさが見えてくるのだ。

残酷な映像と母親の元夫の話、望遠鏡で一匹の鳥を追う絵、母親の飛び立ちを予知させ、静かに二人の旅が始まる。赤の他人の二人、その距離感をあからさまに描いているわけではない。しかし言葉の節々に他人感を感じられるが、それが旅を通して徐々に近づいていく瞬間を会話や動作で感じる。文章を思いつかなかったフィリップがメモを取り始めたり、対等な関係を築き始めたのはオランダ語を話せない彼に変わってアリスが通訳する場面からだろう。上下関係も距離を縮め、二人の寄り添いは親子でもない、恋人でも友達でもない絶妙なフィリップとアリスの世界観を作り出すのだ。印象的なのは海で他人に「お父さんにみえる?」とアリスが聞くシーンだ。
自分のことは他人のフィルターを通して知る。誰かと交わることで自分が見えてくるのだ。

王道なロードムービーを通しての自分探し?二人が手をつないで歩く、台の上に立ったアリスとフィリップが身長差も埋まり、まるで恋人同士のようにみえる横顔や、同じ目線の証明写真。警察につれていっても、また前戻ってきた時の二人の笑顔。二人の目線が交差し、みえる現実が交わってくる。それぞれの子供と大人の部分が上手く合致し、二人にしか住めない世界を作り上げる。当然それは長くは続かない。終わりがあるから成り立ち、彼女越しに自分を見つけるのだ。ラストは大きな未来を彷彿させる余韻を残すカットに爽快感を残してくれる。

自分を探す旅にはやはり他人の存在が必要だ。アリスがフィリップの、写真を撮ってはじめて自分の顔に気がつくように、比べる存在があり、はじめて自分を見つめることができる。日々の何気ない出会いからも人は何かを学び、取り囲む環境や人が自分を形取っていくのだ。
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