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リリイ・シュシュのすべてのKAJI77のレビュー・感想・評価

リリイ・シュシュのすべて(2001年製作の映画)
4.0
僕にとってのリリイ•シュシュは「ゆらゆら帝国」と『地獄の黙示録』と言える気がします。
あと、ダツは怖いので、僕なら飛んでくる前にこっちからダツに突き刺さりにいきます。

再鑑賞したのでmarkしておきます。
痛々しいったらありゃしないですよねこの作品。でも痛々しいと思えるなら少年少女を描いた作品としては大成功です。流石は岩井俊二…恐るべき描画力。

言ってしまえばこの映画って現実逃避についてのお話ではあるんですが、その構造の複雑さがこの作品の賛否を大きく分つものなんだと思います。
田舎からの逃避、暴力からの逃避、人生からの逃避。
本作はそういったあらゆる種類の「逃げ」をすべて詰め込んで、中学生の視点で綴っています。
ただ、目の前の現実からは逃げるのに成功する人もいれば、その反面もちろん失敗する人もいて、どうしようも無くなった時に何を拠り所にするのか、何であれば拠り所になり得るのかは本当に十人十色です。
それがたとえ「死」や「支配」、「暴力」、「犯罪」などであっても、僕ら個人はそれを否定できるほどの力を持ってはいないでしょう。なぜなら、同質の心理的メカニズム(作中では「エーテル」と呼ばれていました)を誰も彼もが胸の内に抱えていて、それに苦悩し、憔悴し、そして時にその中に溺れて夢を見ることがあるからです。
それを理解した主人公だからこそ、豹変した星野や、振り切れてしまった津田、闇を受け止める久野の、「すべて」を一身に背負ってしまい、あのような行動の他に何もできないと判断したんだと思います。

「リリイ•シュシュのすべて」を一人で受け止めきることはできません。でも現実には我が身は一つ、自分が感じたことを処理できる人間は自分だけです。このギャップこそが原罪論の強力な根拠であり、恐ろしい悪魔の存在を「現実」という曖昧な概念に結びつけてしまう所以でしょう。
これは思春期特有の悩みなどではなく、もっと普遍的な苦悶なんだと僕は感じます。
改めて観ると初見の時とだいぶ捉え方が変わってしまっていて、自分にビックリです笑笑
また何年か経ったらこの作品を観直したいと思います。
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