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オッペンハイマーのKAJI77のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
勿論決してオッペンハイマー博士がやったことは擁護できない。
全く戦争については体験した訳ではないにせよ、日本が受けた先の屈辱については両県訪れて資料館での講談に参加したり、知らないなりに一愛国者として学んでいるつもり。
ただ、「やらなければやられてしまっていた」「どうしてもそうなる他なかった」という博士の史実のディテールについては、この映画に対する我々日本人も同じ眼差しを持つことができると思う。同氏はその先に何があるか薄々(どころではない細密さで)分かってはいても、本当に科学を追求したかっただけで、戦時中というのはほんまに集団催眠のような感覚なんだろうね。
それを感じられただけで十分価値のある3時間だった。

個人的には、2年前くらいに見たリトアニア国家元首のドキュメンタリー『ミスター•ランズベルギス』(2021)と所感含め重なる部分がとても多く、この『オッペンハイマー』がドキュメンタリーに引けを取らないほど、いかに精巧に作られているかを観ながら感じてた。

何より良かったのは、今回この作品で主演男優賞も受賞しているキリアン•マーフィ。素晴らしい演技だった。僕の脳内でのオッペンハイマーは以後この人の顔で再現され続けるだろうと確信するレベル。

あとは直接的に戦争や被害者を画として映さなかった点が良かった。(この点について賛否両論あるみたいやけど)
あくまでオッペンハイマーの周囲で起こった事実にフォーカスし切っていて、成果物として原爆が納品されていくあっさり感が本当に恐ろしかったのと同時に、この人もあくまで仕事としてこれをやった事が強調されていて、今まで日本を殺した悪魔として彼について教わっていた自分には考えたこともない視点だった。(実際、博士はラジオで原爆投下の事実を知ったんだとか、それも知らなかった)
ノーラン監督のメッセージと、気概が窺える。

知恵の実。毒を入れられた林檎。
発見してしまったと思ったが最後、一度口に入れてしまったらその前の状態にはもう戻れない。大事なのはあくまで博士の行いについての議論が現代にも大きく取り上げられ、今後も討論され続ける事だと思う。
それならば次は観た我々がこの映画をどう咀嚼するのか、考えなければいけないね。
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