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自由はパラダイスのBONのレビュー・感想・評価

自由はパラダイス(1989年製作の映画)
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ヌーヴェル・ヴァーグをゴダールと共に牽引してきたトリュフォーの『大人は判ってくれない』(1959)のソビエト版と絶賛され、同年のモントリオール国際映画祭でグランプリを受賞した作品。

ロシア最大の映画撮影スタジオ・モスフィルムでタルコフスキーの『ストーカー』(1979)では照明係をしていたボドロフが監督としてデビューし、本作で世界的に確固たる地位を築いた名作。

手の甲に“自由はパラダイス”を意味する頭文字“C3p”の入れ墨が彫られている身寄りのない13歳の少年サーシャは、 自由を求めて度々収監されている刑務所のような感化院を脱走し非行を重ねていた。

唯一の肉親である父親が遥か北方のアルハンゲリスクの刑務所に服役中であることを知り、まだ見ぬ父を求め数千キロ先の極北を目指すロードムービー。何度捕まえられても諦めない。

サーシャ役には実際に車を盗んで感化院に収容されている少年を抜擢。カメラに映し出される彼の姿は到底演技とは思えず、ドキュメンタリーを鑑賞しているかのようなリアリティがあった。

彼は無口でクールで、同い年の子よりずっと大人びている。矛盾した旧ソ連の体制下が、彼のような子どもをそうさせてしまったのだというメッセージを痛烈に感じる。

ラストシーンはイタリアのネオレアリズモの旗手デ・シーカの『ウンベルト・D』(1952)を鑑賞した時のような感覚。彼が初めて感情を露わにしたのではないかと思う。

お先真っ暗にも関わらず、彼の未来には良いことが待っているんじゃないかと柔らかな陽光に予感する。辛くても生きていく人間の姿に希望のカケラをどうしても見出してしまう。繊細な少年の心を映した素晴らしい作品だった。
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