レオピン

戦争と人間 第三部 完結篇のレオピンのレビュー・感想・評価

戦争と人間 第三部 完結篇(1973年製作の映画)
3.9
第三部は完全に戦争映画。第二部までの人間ドラマを吹き飛ばす。涙も枯れ果て幽鬼のような姿の北大路欣也がすべて。これを見終わってからちょっと食事をというわけにはいかないだろう。
更に暗い気持ちになるのは、これが昭和14年夏のことだということ。本番はまだこれから。
伍代家の人々はどうなったのか。ちょっと振り返る余裕もなくなっていた。


南京入城する松井石根大将 タイトルバックは揚子江に横たわる無数の市民の遺体 記録映像に合わせてのクレジット 
1937(昭和12).11.19 国民政府重慶遷都
1937(昭和12).12.13 南京占領

南京陥落に沸きあがる市民、伍代家長女の由紀子(ルリ子)は雨宮家に嫁ぐ。その陰で次女の順子(小百合)は耕平と極秘に入籍する。俊介が二人を取り持った。
この財閥家の中の反逆児たち。兄からは国賊呼ばわりされたが、この時代共産主義に走る華族良家の子弟も多かった。順子は自ら伍代の家を出てセツルメント運動に身を投じたが、サンダースホームを作った三菱の沢田美喜のように出来ることを行なう人たちもいた。

1938(昭和13).1 第一次近衛声明 国民政府を対手とせず
1938(昭和13).3 国家総動員法可決

満州の叔父恭介の下で働く俊介。統計上の数字を正確に述べることで罰せられる。報告文書の偽造・数字の改ざんが当たり前となっていく。ソ連邦崩壊の理由と同じことをしているのだが彼らは知らない
ここでそれまでナレーションを務めていた鈴木瑞穂が出演していることも相まって、次第にみな当事者だという気になってくる。公開時はほぼ全員、家族親類が直接間接にあの戦争にかかわっているから一潮だったろう

1938(昭和13).4 徐州作戦

外国の戦争ものでは描かれない内務班 初年兵しごき 捕虜を使った無意味な殺りくが続く。
ここでも自分を貫く耕平はさんざんな目にあう。部落差別を受けている上等兵との絆もうまれる。中国での戦争ではマトモな戦闘場面はほぼ出てこない。女子供老人だけ。三光作戦 万人坑 子供を撃てと命じられるが八路軍の登場により少女も耕平も救われる。耕平の行方は不明。

順子のもとに憲兵隊が訪れて家宅捜索する。順子の所に来た憲兵は一番憎らしい(上田耕一)。内地の憲兵などは一番安全地帯にいながら最も愚劣卑劣の匂いがする

ソ連満州国境での紛争が激しくなる。陸の三バカ辻政信(山本麟一)が目障りすぎる
1938(昭和13).7 張鼓峰事件

俊介は兵隊にとられていた。狙撃の腕を見込まれた。柘植と再会し伍代の屋敷でのパーティーを懐かしんだ。思えばあれから10年余の歳月。この10年が決定的に日本の命運を分けた。

1939(昭和14).5   ノモンハン事件(~1939.9)
1939(昭和14).8.23 独ソ不可侵条約
1939(昭和14).9.1  第二次世界大戦(~1945.9.2)

戦車部隊との戦いという中々日本の戦争ものでは見ない。何もない草原に大音響を流しつつ横一線で迫ってくるソ連戦車部隊。圧倒する火力にロシア兵のウラーの雄叫び。空撮もすごい。ガンダムのビームライフルと同じ音効が聞こえた。
このノモンハンの戦いの後の現場指揮官たちを襲った悲劇。事後に責任を問われて切腹・自決を強要されている。しかし命令を発した側の責任はとられない。もう『武士道残酷物語』そのもの。

今になってソ連側からの資料が出てきている。小松原道太郎師団長のスパイ疑惑 
敵はあのジューコフ元帥ではなく無能な上官連中だ。留学経験のある知日派の蒋介石はこのことを喝破していた。上へ行けばいくほど馬鹿ばかりと

無能な参謀が無謀な作戦を立て、負けたら現場の士官の責任とされ上は無傷。これが後味悪さを倍増させる。この体質は一直線で今につながっている。ブラック企業の問題なども根幹はこれだ。嫉妬で操られハラスメントの連鎖にはまりやすい。

戦争反対の平和主義者や不拡大派をあえて前線へ追いやる 226の兵たちもそう 死んで奉公しろという思想。特攻で生きて帰ってきた者にも死んでこいと再び行かせる。生の否定。   
戦陣訓や軍人勅諭は一つの思想だ。生活人には思想など必要ないが、一度根付いたら社会を左右する大きな力となる。動かしがたいものになる。沖縄戦であれだけの被害をだしたのもこの為だ。同じ戦争でも『ハクソー・リッジ』では主人公は良心的兵役拒否から衛生兵として戦い抜くことができた。米軍では兵隊の命は優先された。結局は人命を軽視する思想が敗れたのだ。

ラストに出てくる将官 貴様が残っているではないか なぜ全滅するまで戦わんのだ

司馬遼太郎の随筆にもあった終戦間際の出来事。いついかなる時でも軍が優先、民間人など轢いてしまえ と同種。この思想はどこからくるのか。それはファシズムへ陥った理由とともに戦後の知識人、また獄死した思想家たちが伝えている。その声をきかなくてはもったいない。

この大河ドラマは社会のあらゆる階層の人々を描き出した。振り返れば、おぼっちゃんで絵を描くことが大好きなかわいらしい少年が近づきがたい凄みを感じる男に変わっていた。
なんとか騙くらかしてでも多くの人に観てもらいたいな。秀逸なホラー描写があるよとか、小巻さん綺麗よ(本当)とか、日本史偏差値上がるよーとかって、、
アマプラ無料だよー
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