秋なのに寒々しいラストカット
ハングルの大きなフォントがアバンギャルドだった
シネマート映画祭では注目の1本だったことでしょう。
台詞は最小限、役者の演技で見せる。細かい事情は最後の方までよく分からない。
一体模範囚の特別休暇というものは、この世にどれぐらい存在しているのだろう。少なくとも日本では聞かないな。
このまま逃げるか それとも・・・
中々興味深い旧式の鉄道車両が登場する。画面を行き交う線路や列車が運命を表す。
この電車がまた乗り降りがルーズというかきちんと停車してくれないのでみんな小走りで飛び乗っていた。高齢者は大変だ
電車とともに印象に残るのが男のせわしない姿
ホテルで珈琲飲んでても素麵食べてる途中でも、突然席を立ち、待っていてねと言い残してビューっと走り去っていく。だがこんな勝手な男もう知らないとはならない。自分のことを一番に思ってくれるのがひしひしと伝わるからだ。
ゼロ年代以降の純愛作品はクサすぎる台詞が特徴だったがこの映画ではほぼない。こんな落ち着きのない男や女のまなざしだけで十分。固く閉ざされた心は傍らにいる男の待ちの姿勢によって解かれていった。
そしてあの行為の後で髪をなおすという・・・青姦を綺麗に描いてみせるのがこの時代なんです😆
鏡越しにそれを見つめる監視員の目w わたしはあの監視員のメガネ女性の寛大さに胸打たれました。
(あと追っていた刑事もあれあえて見逃したのだろうか。しかし何年たっても刑事のファッションだけは変わらんな)
寄る辺なき人びと 社会の片隅で頼るものがなく身一つで生きる男と女が電車やバスといった公共空間で知り合いになる。まさに人間交差点
なんだか往年の歌謡曲の世界観にも通ずるが、今から見れば通信手段を持っていないというのが一番効いているんだなぁ。いや当たり前か
濃ゆいメロドラマが成立するにはやはり人間裸一貫というところが大きいのだ。
最後の最後に名前を訊く 手がかりは名前と約束だけ
そんな相手をどうやって待つのかと思ってしまうがこの名前なんて後回しというのがいい。
あらゆるものを調べつくしてから選択するのが当たり前の時代と、ただ目の前のものに素直に従っていた時代の感性がかけ離れているのは当然のことだ。
だけど人が一瞬に賭ける 目の前のものに飛び込むというのはそうそう変わらない
人生は偶然だもの
通信手段が発達した時代だからこそ脚本家の知恵や工夫が試される。そこにも純愛モノの面白さがある。
全く派手さはない 小手先のテクニックもない 単純すぎる道具立てでここまで吸引する。
ドラマシナリオの勉強にうってつけの作品でした。
Cast
キム・ヘジャ(金恵子) 『母なる証明』 撮影時41歳 余貴美子似
チョン・ドンファン 『ソウルの春』 山本圭似
撮影:チョン・イルソン
脚本:キム・ジホン(金志軒)
<元祖>
イ・マニ 『晩秋』('66) ネガ消失 プリントが北朝鮮にあるという噂
<リメイク作>
斎藤耕一『約束』('72) 岸恵子とショーケン
キム・ギヨン『肉体の約束』('75)
◯キム・スヨン『晩秋』
キム・テヨン『レイトオータム』('10) タン・ウェイとヒョンビン