【Mの疲劇】
スパイなのに名乗る、という基本の所から荒唐無稽なのはクレボン(クレイグボンド)になっても変わらぬことはわかっちゃいますが、その分、アフリカと内戦ビジネス、ボリビア水利権問題など、アクチュアルな物語立てがよかったので、そこが抜けた本作には気が抜けました。
せめてハビエルの悪役が切れ者なら!結局ヘタなテッポも数撃ちゃ当たるモードじゃん。
ボンドたちの鏡となるような悪役で、だからお話も内を向く。MI6の存在意義が問われるこんな展開も、勿論アリだとは思いますが、何だか痒い所に手が届かないというか、痒みをアクションで誤魔化した感じ。私は、せっかくのメンデス監督を生かしそこなったと思いました。
今回要は、ボンドとシルヴァとMの三角関係のお話だと思うのですが(笑)、『アメリカン・ビューティー』『レボリューショナリー・ロード』が大好きな私としては、その柱できちっと組んだメンデス味が欲しかった。そこにアクションを巧く乗せれば、監督&007の新境地ができたと思います。
で、この展開だと、ボンドの前に、Mの物語が立たないと腰砕けでしょう。テニスンの詩で一席ぶったりするけど、彼女の生そのものが光る瞬間がない。だからそんな不足感のまま迎えるあの結末に、もの凄いわざわざ感があって、エンドロール後に、実は…てのがてっきり続くのかと思っちゃった(笑)。
ボンドガール陣が薄かったのは、このための伏線?…いやそれにしても。
で、ボンドの過去話は、Mの話とコンフリクトを起こしてると思いました。
ロジャー・ディーキンスの映像も美しかったんですが、血湧き肉踊らなくて。振り返れば、前作の乱暴なアクション編集だって、命懸けの追跡になると、何よりスピード優先になってしまう際どさが、よく出ていたと思うのですね。
と、弱点ばかり気になってしまいましたが、それでもクレボンは好きです。新ボンド発表の時は、うわ、マッチョな徳井優!って思っちゃいましたが、今では、彼が現代ボンドとして一番だと思う。次回作、期待しています。
<2012.12.7記>