くりふ

007 スカイフォールのくりふのレビュー・感想・評価

007 スカイフォール(2012年製作の映画)
3.0
【Mの疲劇】

スパイなのに名乗る、という基本の所から荒唐無稽なのはクレボン(クレイグボンド)になっても変わらぬことはわかっちゃいますが、その分、アフリカと内戦ビジネス、ボリビア水利権問題など、アクチュアルな物語立てがよかったので、そこが抜けた本作には気が抜けました。

せめてハビエルの悪役が切れ者なら!結局ヘタなテッポも数撃ちゃ当たるモードじゃん。

ボンドたちの鏡となるような悪役で、だからお話も内を向く。MI6の存在意義が問われるこんな展開も、勿論アリだとは思いますが、何だか痒い所に手が届かないというか、痒みをアクションで誤魔化した感じ。私は、せっかくのメンデス監督を生かしそこなったと思いました。

今回要は、ボンドとシルヴァとMの三角関係のお話だと思うのですが(笑)、『アメリカン・ビューティー』『レボリューショナリー・ロード』が大好きな私としては、その柱できちっと組んだメンデス味が欲しかった。そこにアクションを巧く乗せれば、監督&007の新境地ができたと思います。

で、この展開だと、ボンドの前に、Mの物語が立たないと腰砕けでしょう。テニスンの詩で一席ぶったりするけど、彼女の生そのものが光る瞬間がない。だからそんな不足感のまま迎えるあの結末に、もの凄いわざわざ感があって、エンドロール後に、実は…てのがてっきり続くのかと思っちゃった(笑)。

ボンドガール陣が薄かったのは、このための伏線?…いやそれにしても。

で、ボンドの過去話は、Mの話とコンフリクトを起こしてると思いました。

ロジャー・ディーキンスの映像も美しかったんですが、血湧き肉踊らなくて。振り返れば、前作の乱暴なアクション編集だって、命懸けの追跡になると、何よりスピード優先になってしまう際どさが、よく出ていたと思うのですね。

と、弱点ばかり気になってしまいましたが、それでもクレボンは好きです。新ボンド発表の時は、うわ、マッチョな徳井優!って思っちゃいましたが、今では、彼が現代ボンドとして一番だと思う。次回作、期待しています。

<2012.12.7記>
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