Keiseihhh

大脱走のKeiseihhhのネタバレレビュー・内容・結末

大脱走(1963年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

大脱走。1963年の映画ながら述べ18回も日本でテレビ放映された異例の作品。そして傑作であることは間違いない。ポール・ブリックヒルの「the great escape」を原作としているが僕は未読。捕虜収容所施設からの脱走をモチーフにしながらも見事にエンターテイメントとして楽しめる作品になっており、同時に原作及び犠牲になった人々への敬意に満ちている。今でも覚えているシーンは、掘っていた途中の地下道、通称「トム」が見つかり絶望、失意の虜となったアイブスが鉄条網を登ろうとして射殺されるシーン。捕縛された50名、捕虜収容所施設へ帰る途中だった50名が休憩と銘打って立ち寄った場所で全員射殺されるシーンである。犠牲者には強固な意思で皆を束ねていたリーダーの一人も含まれていた。この時、銃声が響く中、夕暮れの丘に立つドイツ兵のカットは映画史に暗く、だが鮮烈に残っている。そして何と言っても外せないのがスティーブ・マックイーン演じるヒルツのバイクを使った逃走シーンだろう。逃亡を続ける彼は結果大量のドイツ兵に包囲され有刺鉄線にバイクごと突っ込んでしまうのだが、ここがこの映画を歴史に残る大作に押し上げるか、それともただの娯楽映画に留めるかの分水嶺であった。鉄線に絡まれたマックイーン、アメリカの自由と反骨精神の象徴であるマックイーンは、この時自分が脱走した捕虜であることを知らせ、降伏を示すために手を挙げるのである。ここで最後まで反骨を示しヒロイックに銃で撃たれるなどの改変もあり得ただろうし、出来ただろう。だがそうはしなかった。その決断がこの映画を奥深く、ヒューマンで胸に得も言われぬものが込み上げる作品に仕上げている。ラスト、野球グローブとボールがヒルツに与えられ彼は今一度独房の生活に戻るが、その時ドイツ兵の人間としての「何をやっているんだ、俺たちは」というニュアンスの沈黙が、この作品がただの娯楽映画で終わらせていない。
またこの作品における、ほとんど道具がない状態でもアイデアと気力さえあれば「屈服」せずに済む、というメッセージは多くの人を奮い立たせるだろう。この点監督のジョン・スタージェスが得意とした「不屈でへこたれない男たち」が存分に描かれていると言えるかもしれない。不朽の名作の一つ。
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