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第七天国のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

第七天国(1927年製作の映画)
3.5
【7階の天国で彼女は待っている】
自分の所属するコミュニティでタテスクロール型漫画に対するヒントを映画の観点から得たいといった問い合わせがあった。自分自身漫画はあまり読まないが、タテスクロールというフォーマットに興味を持った。一方で、今の映画業界ではいまだにスマホの縦画面を効果的に使いこなせておらず、貧相な画になってしまっていることが多い。『ファントマの偽判事』のようにサイレント映画からヒントを得た方が良いなと薄々感じた。

とはいえ、サイレント映画はそんなに観ている訳ではないので、Amazon Prime Videoで『第七天国』を観た。

タイトルは、パリのアパルトマン7階を主人公が「天国」と名付けたことから来ている。下水道の清掃員だった男はひょこんなことから、道路清掃員に昇格する。そんな彼の前に、シンデレラさながら姉にイジメられている女が転がり込んでいく。最初こそは「警察に突き出すから」と語っていた男だったが、段々と親密な関係になっていく。しかし、戦争が始まったことで二人は引き裂かれてしまうのだ。

本作はなんといっても「上昇」の映画であろう。下水道から地上へ降り立ち、アパルトマンに作った天国で愛を深め合う。しかし、戦争が下界へと男を引き摺り込み、なんとかして天国へと戻ろうとする。

注目すべきは、アパルトマンの魅せ方だ。ズームで1階を魅せると、カメラは上昇する。まるでダンジョンのように険しい道のりを映す。恐らく、セットでは3階分まで作り、2つのショットを重ねることで、疑似的なワンカットに見せかけているが、各階の雰囲気の違いが強調されており面白い。そして、この険しい道のりがラストの感動へと直結してくる。

まさしく、映画の教科書と呼べる運動が観られた。

ちなみにタテスクロール漫画において、下降の運動は得意だが、上昇の運動は不向きなように思える。先に天が見えてしまうからだ。それを踏まえてどう描くか、そこに腕の見せ所があるように思える。
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