このレビューはネタバレを含みます
ニックパークの発想が大好きです。これはシリーズの中で一番演出が神がかってる。ほんとに溜息しか出ない。
まず水風船をでかい風車に吊るして落とすことでウォレスを起こす発想。シリーズものって基本的に毎回ルーティンがあると思うんだけどW&Gではそのルーティンのズラし方が絶妙。ふたりの職業と環境が毎回変わるけど、ウォレスを起こすことで始まるグルミットのルーティンは変わらない。要は起こし方が毎回ユニークで楽しいんです。パンをブレーキ代わりにするのとかもうめっちゃええやん。
一番好きなとこは、パンの紙袋の中で手が触れ合っているであろうカットの直後にパンたちが窯の中でプクッと膨らむ画。ロマンチックな演出の後にこの繋ぎは変態よね。
あと階段を登るグルミットの足のアップ。少し目凝らしたら分かりやすく指紋みたいなのがクレイに刻まれてるんだけど、この動物の皮膚の質感表現って多分再現性を追求してる訳じゃないのにリアルに見える。皮膚が寄ったときの皺ってことなんかな。それより吃驚したのが足の筋肉の緊張と弛緩。クレイなのになんでそこまで出来るの?って。寄ったから魅せられる表現ではあるけど、ああこれやりたかったんやろなぁって。スタッフ陣の「これやりたい」が詰まってるいい現場なんだろうなと観てて微笑ましくなる。
これ苦労したんやろなっていうとこがあって、グルミットが雨の中豪邸に入っていくシーン。思わず巻き戻してコマ送りで何回も観た。引きは本物の水で寄ったときは被写体に水滴のクレイを付けて動かしてるんだけど、グルミットが体ぶるぶるして水弾くときは本物の水使ってるっていう。フェイクとリアルを混ぜて境を極限まで分かんなくする方法。「快適な生活」からずっとアードマンもドキュメンタリーの方法論をベースにやってるだなぁって感心してしまう。
これ表の顔は子供向けのアニメだけど、子供には理解できない部分も多くて老若男女問わないアニメやなと思った。個人的にフラフルスが飼い主に反抗する瞬間にドキッとした。ほんの一秒だけナメの木にF♡Gって掘ってあったり、連続殺人の女がリストノートに本当は気付いてて暖炉に捨てるとか、何回噛んでも味が消えない仕掛けが盛りだくさんの最高級エンタメです!!
松本人志が「理想の人は出会ってしまったら理想じゃなくなる」っていう名言を残してるんだけど、似たことをウォレスも言ってた。