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街から街へつむじ風のakrutmのレビュー・感想・評価

街から街へつむじ風(1961年製作の映画)
3.6
ドイツ留学から帰国した医師が、就職先の病院で土地買収に絡む揉め事に颯爽と立ち向かう様子を描いた、松尾昭典監督のコメディ・アクション映画。主演の石原裕次郎と北原三枝が結婚した後に初めての公開となる裕次郎映画であり、77分という短さもさることながら、内容的にも肩肘張らずに気楽に観ることができる。

とても特徴的なのは、それまでの裕次郎映画にはないコミカルな雰囲気。関西弁の変な三人組が出てきてコントのような演技を見せたり、深夜喫茶でクラシックが流れた途端に眠っていた周囲の客が一斉にひょこっと起きるといった細かい芸が凝っている。ラストへ向けての展開も悪くない。でも、ちょっと肩の力が抜けすぎているような気もする。

裕次郎が勤務する病院のロケ地に渋谷・道玄坂が使われていて、まだ開発前の渋谷の風景を見ることもできる。病院のすぐ外の道は玉川通りで、もちろんこの当時はまだ首都高3号線は走っていないが、建設に向けての準備が始まっているようにもみえる。この道を下った先が渋谷駅で、映画の中でも山手線が走っているシーンがある。そうすると、大きな橋がかかった郊外の川が何度も出てくるが、これは多摩川なのだろうか。

そして何と言ってもこの映画が後世で有名になったのは、裕次郎の代表曲とされている『銀座の恋の物語』が本作の挿入歌として作られたという点である。映画の中でも、石原裕次郎とクラブ歌手役の南寿美子(歌は裕次郎とのデュエットでこの曲のレコードを出す牧村旬子による吹き替え)がこの曲をデュエットするというシーンが後半に盛り込まれている。ちなみに、映画『銀座の恋の物語』は、本作をきっかけとして曲が大ヒットしたことを受け、その歌詞をモチーフに1年後に製作された映画である。

また、裕次郎が演じる医師の父親である住職役で宇野重吉が出演しているが、帰国したばかりの裕次郎が実家に帰って宇野重吉と酒を飲み交わすシーンが前半にある。この二人は、その後、裕次郎(や渡哲也)が長年出演した宝酒造の松竹梅のCMでも同じようなシーンを演じることになる。

出番はそれほど多くないが、看護婦を演じた芦川いづみの可憐さも、本映画では見逃せないポイントだろう。一方で、中原早苗はもう少し使ってあげてもよかったような気がする。小高雄二があまりにも情けない役すぎて、ちょっと可哀想だった。
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