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正しい日 間違えた日のakrutmのレビュー・感想・評価

正しい日 間違えた日(2015年製作の映画)
4.2
トークショーのために訪れた水原で映画監督の男性が魅力的な画家の女性と出会って親しくなっていく姿を描いた、ホン・サンス監督の恋愛ドラマ映画。

エリック・ロメールに魅せられた私にとって、韓国のエリック・ロメールと呼ばれるホン・サンス監督は以前から気になっていたが、ちょっと躊躇することもあって、そのままになっていた。最近、JAIHOでホン・サンス監督の特集が始まったこともあり、この機に鑑賞することにした。さて、どの作品から見ようと考えたときに、選んだのが本作。公私にわたって監督のミューズであるキム・ミニを初めて起用したのが本作であり、二人が現在の関係になるきっかけとなった作品である。キム・ミニ以降と以前で作風が変わったとも言われているので、まずはキム・ミニ以降の現在に至るまで作品を見てみたい。

韓国のエリック・ロメールと言われるだけあって、本編のほとんどは会話で構成されている。とにかく、よく話す。喫茶店で、女性のアトリエで、寿司屋などで、主人公の二人(映画監督と画家)による会話が延々と繰り広げられる。これだけ徹底してミニマリスティックな会話劇はロメールにもない特徴であり、そういう意味で斬新と言える。そして、この二人を演じるチョン・ジェヨンとキム・ミニの優れた演技によって、会話劇が完全に成功している。特にキム・ミニの演技は素晴らしく、何気ない表情や仕草から情感が見事に表現されている。とても魅力的に映っているキム・ミニを見ていると、ホン・サンス監督とキム・ミニが恋愛関係になったのも納得できる。一方で、不器用で純朴そうに見えて実は女たらしな感じの映画監督の雰囲気を上手に醸し出しているチョン・ジェヨンの演技も良い。この映画のせいではないけれど、髪型のせいなのか、どうしてもチョン・ジェヨンが劇団ひとりに見えてしまい、喜劇のように感じてしまうのがちょっと気になってしまった。

内容としては、同じ状況で出会った二人のその後の展開の2つのバージョンが、前半と後半で描かれるという面白い構成である。そのときの心情の機微に応じた会話内容のわずかな違いから結末が大きく変わってしまうという男女関係の予測不可能性を表現していると解釈できるが、個人的にはちょっと異なる見方をした。誰にでもあのときこうしていたらどうなったのだろうと想像することはある。そんな現実と想像を、前半と後半で描いているのである。だからこそ、後半はどこか男性にとって都合の良い展開で描かれているように見えるのである。
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