Eyesworth

パリ、テキサスのEyesworthのレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
4.9
【人生とは失語症である】

ヴィム・ヴェンダース監督の代表作のロードムービー。

〈あらすじ〉
4年前に失踪した中年男トラビス(ハリー・ディーン・スタントン)がテキサスで発見された。弟のウォルトは妻アンヌと暮らすロサンゼルスの自宅に、記憶喪失の彼を連れて行く。そこにはトラビスの7歳になる息子ハンターが同居していた。ぎこちない再会を経て、ふたりの間に次第に親子の感情が蘇る。そしてトラビスは行方不明の妻ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)を探すため、ハンターを連れて旅に出る…。

〈所感〉
Theアメリカと言った感じのテキサスの広大な景色を彼らと共に旅をしている感覚に陥る。これぞロードムービーの醍醐味だ。
トラビスは主人公だが、序盤全く喋らないため我々には彼の身に何が起きたかわからない。そんな彼が弟のウォルト、その妻のアン、そして実の息子だがずっと離れ離れだったハンターと接していくことで、4年という期間の断絶が少しずつ溶解し、過去の出来事と向き合い始める話である。このトラビスという風変わりな男を見て、私が最初に想起したのは、三島由紀夫の「人生とは"失語症"だ」という言葉だ。言葉は放たれた瞬間に指の隙間から零れ落ち、完全なものではなく、真実味を失ってしまう。それなら語れないことこそ本来あるべき姿なのではないかと思う。トラビスは一度心を言葉の世界から閉ざしてしまったため、それを溶解させるのは周りの人間からしたら相当根気のいる作業だったろうがよく向き合い続け、堅い扉をこじ開けだと思う。その扉の先にはあの写真の「パリ、テキサス」の空き地があり、隣には最愛の人ジェーンとその子ハンターと幸せに暮らしている本来の幸せがあった。結果的にその未来には至らなかったが、確かにそれは間違いなく目の前にあった。トラビスの決断は間違っていない。でも、それにしても、彼女と電話越しのみで一切直接顔を合わせることはないのは切なすぎる。それは彼の最後の守るべき意志だったのだから。
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