つかれぐま

パリ、テキサスのつかれぐまのレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
4.5
24/5/23@イオン多摩❹
【午前十時の映画祭】
外国人監督の撮るアメリカロードムービーにハズレなし。本作も『テルマ&ルイーズ』も(我々非米国人が観たい)アメリカをカッコつけず、無邪気に、てらいなく映す。画面端々の🇺🇸アイコンを見つけるのも楽しい。

主人公トラヴィスの過去はほとんど語られないに等しい。放浪の4年間何をしていたか?そんな兄貴になぜ弟夫婦は優しいのか?最後にジェーンに語った「真相」もどこまで彼の言葉を信じてよいのか?スクリーンに映っていることだけでいえば、トラヴィスは最後までダメ男であり、共感が難しいキャラクターだ。

この余白たっぷりの映画は「映っていない過去」を想像する能動を喚起する。その一つのヒントがあの8ミリフィルムかな。あれを折り返しにトラヴィスが違った人間に見えてくる。人には人の事情があり、ごく一部の切り取られた情報だけで断罪するのはおかしいと。現在の「不寛容な時代」に観ると説得力ありだ。

結局トラヴィスは、夫として父親としての役割に向いていなかった。ただそれだけだ。長い旅の果てにようやくそれを自覚したトラビスの第二の人生(おそらく二度と結婚しないだろう)が始まるフリーウェイ。ラストの後味は悪くない。

理想的な親である弟夫婦からハンターを取り上げたのが許せん。という感想もあるかもしれない。だが、あの母子の抱擁シーンを見ると、トラヴィスの行動を非難する気にはなれない。

そして想像するに、あのあとジェーンはハンターを諭し、ハンターは「二人の母親」がいるという多幸感を抱えて弟夫婦の元へ戻ると思う。ハンターがジェーンを奇跡的に見つけたあの日、母子二人の服装は揃って赤。血の繋がりの強さを連想させるが、その翌日、再会の夜は揃って落ち着いたダークグリーンを着ている。この色の変化が私なりの根拠。