風信子

息もできないの風信子のネタバレレビュー・内容・結末

息もできない(2008年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

なあ、教えてくれよ。高校に行ってるんだろう?どうやって生きりゃいいんだよ?

ふとしたことから出会った、底辺で暴力の世界で生きる男と家庭の重荷を背負って生きる女子高生の物語。
最初の出会いは最悪で一発ずつ殴り合いまでする。けれどなぜか離れがたい2人。男女を越えての魂が呼びあったとでもいうのか。それは多分、当たり前の環境で育った人間には分からない皮膚感覚が呼び寄せるものではないだろうか。負のギフトを貰って生まれた者たちの、行き場のない沸々とたぎる怒りとどうしようもない閉塞感と絶望感と。2人の静かな慟哭が聞こえる。
母を殺した父親を赦せない男性は「たった15年で罪は消えるのか」「死ね」と激しく憎んでいるが、いざ父が死にそうになると病院に担ぎ込み俺の血を輸血しろという。大嫌いなのに憎んでいるのに捨てきれないのは血の繋がりゆえか。
どうしようもない日常で更に行き詰まった中盤の「なあ、教えてくれよ。高校に行ってるんだろう?どう生きりゃいいんだよ?」の台詞にこの映画で伝えたかった全てが詰まっているのではないか。めったに泣かないがこの場面で思わず落涙する。
「あんのこと」でも思ったことだけれど負の連鎖を断つのは容易ではない。「自己責任」で片付けられる問題ではないと思う。
長編デビュー作品らしいが、撮影当時この監督も行き詰まっていて(息詰まっていて?)その時の思いの全てを込めたという。
途中、資金繰りにも行き詰まり自宅も売却したという。それでも陽の目をみないで埋もれていく作品がとても多いだろうに、世の中に発表されて、そして観ることができて感謝する。世間で高く評価されて本当に良かった。
男性は暴力の仕事から足を洗おうとして最後の仕事を引き受ける。が、得てして「最後の仕事」は厄介なことになる。ラスト、少女とその弟が無言で見つめ合う、睨み会うシーンで終わるのが素晴らしい。無言は言葉より雄弁だ。