なお

誰も知らないのなおのネタバレレビュー・内容・結末

誰も知らない(2004年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

子どものままの大人と、子どもでいられない子どもたちの話。

酷い環境下でも、子どもたちは幸せや希望を見つけながら、無邪気に逞しく生きていく。
どれだけの大人が見放しても、生きることは簡単に諦められるものではない。
それはとても辛いことのはずなのに、子どもたちは受け入れて、順応してしまう。

生きることからは、どんなに苦しくても逃げられない。大人が一番知ってるはずの命題を何も知らない子どもたちが真正面から向き合っている。その強さに寄りかかって、すべてを彼らに丸投げして、大人は逃げる。甘えているのは、大人の方だ。

肌寒い季節に薄着で出かけていく母。子どもを入れるキャリーケースはヴィトン。女を剥き出しにして生きてきたなかで授かった4つの命。母はその落とし前をつけずに、自身の幸せを求めて生きていった。あまりに幼い大人だった。

不信感を抱きつつ、母の女らしさに惹きつけられていく娘。その想いは叶えられない。それでも母への想いは床に染み込んだマニキュアのように拭うことはできない。 

子どもは、圧倒的に親の支配下で生きている。そして、親との楽しい思い出は子どもを親から離さない。親を好きで、信じる気持ちはそう簡単には無くならない。だから苦しい。

「子どもであることを奪われた子どもほど、哀しいものはありません」という、とある漫画の台詞を思い出した。
子どもであることを奪われた兄が子どもらしさを取り戻すと、近所の悪ガキのカモにされる。それがあまりに切なかった。
本来ならそうなっても仕方のないことなのに、弟と妹には悪い兄として映ってしまう。自分自身も苦しめてしまう。あまりに理不尽だった。
そうして非行に走ってしまった子どもたちが、どれだけいるのだろうか。非行という言葉で片付けていいのだろうか。

お金が入ったら、買うのは小さくなった靴ではなくお菓子とインスタントラーメン。
彼らにとって必要なのは、現実の辛さを解決するものではなく、そこから目を背けるためのもの。それは、追い込まれた人間がとる行動を象徴的に表していると思った。

現実の辛さではなく幸せに目を向けて、その幸せが壊れないように生きている。その幸せをなくすことになるからと、辛さを解決しようとはしない。大人はそれを知って何もできずにいる。でも、それで良いんだろうか。

必死になって親に電話をかける子ども。そのすぐ上のフロアで、大人が仕事をしている。すぐそばに助けを求める子どもがいるのに、そのことを誰も知らない。
大量のアポロを、遠足のおやつだというコンビニの店長。その子がなんのために買ったのか、知る由もない。

誰も知らない彼らのことを、知っている大人はいる。でも、知らないフリをしている。だから彼らは自分たちで生きていく。その強さに、大人はいつまで甘えているのだろうか。
なお

なお