垂直落下式サミング

モダン・タイムスの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

モダン・タイムス(1936年製作の映画)
5.0
貧乏な労働者のチャップリンが、職を転々としながら、愛する女の人との幸せな生活を夢見るというおはなし。
産業革命以後、それまでは人の手でしていた様々な仕事が機械化され、あらゆる国のあらゆる業種の職人たちが、大量に失業者となった。
明日、自分のしている仕事が機械に取って変わられるのではないか、いつの日か人は機械の奴隷となるのではないか、そんな恐怖が今日まで常に労働者たちを怯えさせてきたのに、最近は人工知能なんて恐ろしいものが出来てしまったものだから、頭脳労働までも奪われるのではないかと、さらに多くの業種の人が心のなかで戦々恐々としているのではないか。
本作は、時流に対する風刺劇ということもあって、チャップリンはいつにも増して反権力的な姿勢で取り組んでおり、警察嫌い、フォーディズム批判、資本主義否定と、反時代的な色合いを増して、この喜劇が社会への皮肉であることを強調している。コメディアンたるもの、世の中の調子づいてる奴こそ小馬鹿にして笑ってやらなければ!喜劇王は怖いものなしだ。
反骨の批判精神が貫かれた物語は、チャップリンが変な歌にのせた変なダンスをして幕引きとなる。いやいや君たち、機械は歌えないでしょう?いい加減な歌を歌って、へんてこなダンスを踊れるだけで、人間はじゅうぶん創造性のある偉大な存在だよと、痛烈な文明批評の物語を最終的には人間讃歌へと終着させる。何かを笑い者にする道化こそ、誰よりもやさしくなくてはならないのだと、映画はそんな当たり前を教えてくれる。