まぬままおま

第一の敵のまぬままおまのレビュー・感想・評価

第一の敵(1974年製作の映画)
4.0
ホルヘ・サンヒネス監督。
南米のボリビアの映画。亡命中のウカマウ集団が制作を行っている。
「ウカマウ」は、ホルヘ・サンヒネス監督の初長編作のタイトルでもあるのだが、アイマラ語で「そんなことよ」を意味するとのこと。

「映画創りに特有のヒエラルキー構造を排し、集団的創造を志す彼らは、自らを『ウカマウ集団』と呼ぶようになった」(DVDブックレットより)。

昨年行われた「現代アートハウス入門」でホルヘ・サンヒネス監督の『鳥の歌』が上映され、それが気になっていたのだが観れず。だったらウカマウDVDコレクションの1からみようと本作を鑑賞。

農園主の不当な搾取や暴力を被る農民たち。一人の農民が殺されたことを契機に彼らは農園主を捕まえる。そして当局に身柄を差し出し、公正に裁かれることを望む。しかし当局は買収されており、農園主は解放され逆に農民が不当に収監される。そこにやってくるゲリラの民。彼らは農民に団結し、革命を起こすことを呼びかける。再び農園主を捕まえ、人民裁判を行い、彼を処刑する。彼らは敵を倒したと喜ぶ。
しかしゲリラ兵は次の戦いのために農民を仲間にしようとするが、数人しか集まらない。そして当局はアメリカ軍に協力を求め、ゲリラ兵を殲滅しようとする。彼らの苦しみは終わらない。第一の敵は、アメリカ=帝国主義なのである。

極めて左翼的な映画なのだが、ゲリラ兵が仲間を募ることができなかったシーンを描くことで、実際のラテンアメリカの抵抗運動にあった「負」の側面を表していることが印象的。
そしてアメリカ=帝国主義で標ぼうされる民主主義や多数決の原理、法による公正さが、アメリカに擁護される当局や農園主ではなく、農民の行動に描かれていることも示唆的である。最初に農園主を捕まえた時、当局に差し出すか、殺すかは、民主的に多数決で決定されるし、法による公正さは当局による裁判ではなく、人民裁判で実現される。それがとても面白い。

私たちは、日本という地理的、社会経済的な構造に置かれているため、アメリカ=帝国主義的な価値観を無前提に肯定している。しかし「真の」民主主義的な価値観は、すでに人々の間にある/あったし、それを暴力的に奪っている歴史にも目を向けなくてはいけない。

この映画は、実際の村人の創造的参加によってつくられた。
「真実」や「敵」を示すことに危うさがある現代ではあるが、それでも私たちが映画に創造的参加をし、社会の公正さを取り戻す必要がある。