【事のあらまし】
父が亡くなり、実家が没落したスンリェンは。
富豪の第四夫人として、嫁がされる。
初夜は、待遇良く出迎えられるが。
他夫人も、同待遇を受けられる事に気づく。
やがて彼女は。
主人からの寵愛と、下僕からの尊敬・服従は。
己の行動で、掴むことができる事を知るのだった
【総評】
春夏秋冬、4つの章立てで繰り広げられる物語。
彩り豊かな風景に、溶けて行く『紅』色が鮮烈。
情念を感じる『紅』の世界に誘われます。
鬼灯(ほおずき)の様な、『紅』の提灯。
もわんと照らされる、提灯の光によって。
こちらの心が、彼女と同化していきます。
本性が爛々と、赤々と照らし出されます。
彼女の身体が閉塞的な建物に拘束され。
同時に観客の心も篭絡・幽閉されます。
主人の姿はカメラに捉えられず。
会話の切り返しでも、常にロングショット。
観客側の、主人への同調を徹底的に避け。
夫人同志の取り交わしに、比重を置く構成。
閉鎖的で独特の風習・因習の妙味。
歴史的で芸術的感覚の高まる、建物美術。
夫人たちの腹の探り合い、協力と敵対。
自分の使用人との、不和と不義。
主人の寵愛を巡り、いらぬ方向へ。
心と心がすれ違い、悶え始めます。
やりきれない想いと気持ちに搦められ。
彼女は、ある部屋の存在を知ります。
他の者に聞いても、タブー扱いされ。
詳細を教えてはもらえない。
その態度から彼女は、そして我々も。
ある事実に薄々と、憶測が生まれます。
ついに出来事が起きて。
第三夫人に罰が与えられると。
彼女の心は、変化が生まれます。
自分のある行動が、他人の人生に。
取り返しの付かない影響を与えたのです。
心は絡まれ、幽閉されて。
おぼつかなく、ふらふらと。
あてどもなく彷徨う姿の中で。
容赦なく延々と流れるクレジット。
無情極まる演出が、強烈に刺さりました。
到底、現世とは思えない。
幽境的な世界観に、私の心は圧したのです。
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『張芸謀 チャン・イーモウ 艶やかなる紅の世界』予告
https://www.youtube.com/watch?v=DhC8jKOA-Yk