殺し屋にスカウトされる主人公のタクシー運転手(勝新太郎)は、身元も性格も行動原理も明瞭明確。
だが、彼を取り巻くキャラクター達は…。
主人公をスカウトする3人の殺し屋は、目的があやふやで出自もイマイチ不明。彼らのターゲットであると同時にボスでもある外国人は、良い奴なんだか悪い奴なんだかよくわからない。主人公に惚れたという神出鬼没の女性(江利チエミ)は、あるときはラーメン屋のウエイトレスあるときはホテルのルーム・キーパーしかしてその本性は?と、全くもって存在があやふや。やたら狭苦しくてぼろっちい小部屋に詰めているたった3人しかいない捜査一課の刑事たちは、何故こんなところに押し込められているのかちゃんと仕事をしているのか不透明。冒頭に登場する轢き逃げ犯も、後半、都合良く再登場するが、何しに来たのか何で朗らかなのか謎。
つまり、主人公以外は、全員揃いも揃ってミステリアスで謎だらけでよく判らない人達ばかりなのだ。そして、考えてみれば、唯一マトモだと思っていた主人公ですら、殺しの目的は正しいことをするためだという “正義の殺し屋” 。何じゃそりゃ?級の意味不明な奴だったりする。
ことほど左様に、市川崑夫妻の巧みな脚本と演出によって、鑑賞する我々は幻惑され翻弄され、ラストで勝新太郎が語るように「何が正しくて何が悪いのかわからなく」させられてしまう。そしてこの幻惑は、音楽を担当したハナ肇(出演はしていない)による、ドラムとサックスだけのむっちゃ cool な劇伴によって、一層際立つのである。