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千羽づるのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

千羽づる(1989年製作の映画)
4.2
広島平和記念公園の「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの短い生涯を描いている。1958年に同じく禎子さんを描いた『千羽鶴』が公開されたが、本作は1989年の神山征二郎監督作品を近年ニューマスターしたもの。父に前田吟、母に倍賞千恵子の家庭的な雰囲気のなか、原爆症に罹った禎子さんを演じた広瀬珠美の純朴な演技が胸に染み、非核、反戦の思いが静かに伝わってくる。

被爆したときの映像は少しだけで、酷いシーンや声高に反戦を叫ぶことはないのに、運動会で活躍したり、潮干狩りや修学旅行、友情を育んだこと、おめかししたこと、禎子さんが短い12年の人生を楽しんだことを表すだけで、なんとも言えない気持ちになる。残酷な運命に涙を抑えられなくなる。

禎子さんが修学旅行でお寺の宿坊に泊まった際、見事にお経を唱えるのだが、それは親戚縁者が既に12人他界し、葬儀が多いので覚えてしまった、というくだりがある。ショックなシーンだった。

戦争は終わっても死と病が身近だった被爆地の人びと。平和とは何かを日々確かめて生きている人びと。禎子さんの運動会での活躍は人生最大の喜びだったと思うと涙が止まらない。


「これはぼくらの叫びです これは私たちの祈りです 世界に平和をきずくための」と原爆の子の像の下の石碑に刻まれている。


原爆の子の像は、禎子さんの同級生たちが声を上げ、募金を集め、全国的運動になって建立されたもの。

タイトルの千羽づるは、千羽折ると病が治ると信じて折っていたが、実際は禎子さんは余命に気づいていた。折鶴のエピソードは本作の中心にはなく、あくまでも禎子さんが友だちと過ごした学校生活、家族との暮らしに焦点が当たり、闘病費用のために店を売り引っ越した父の決意や、覚悟しながら娘を温かく見守る倍賞千恵子の円熟した演技で、邦画らしい質素で優しい家庭的な作品になっている。それが余計に悲しい。

主役は天才子役の岩崎ひろみかと思って観始めたが、禎子さんの仲良しの役だった。

レビュー1000本祭りはこれで一旦お開きにします。
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