長谷川億名

嘆きの皇太后の長谷川億名のレビュー・感想・評価

嘆きの皇太后(1989年製作の映画)
5.0
シャンタル・アケルマンが5週間ピナを取材したドキュメンタリー、「One day Pina Asked」を観て、ピナの舞踊についての映像作品は「夢の教室」含め、4作観たが、One day Pina askedはダンサー達、対象ととても距離が近く、監督自身の、ピナが生み出す感動の謎への、ほとんど個人的な興味が生の声と共に伝わってきて、好きだった。しかしどれも一番はなく、舞踊団のいくつかの時代を、補い合いながら記録していて、その中心には、一度きりの芸術であるピナの舞台の生命が存在している印象だ。(また、どれもピナ自身がそれほどは出てきておらず、どちらかといえばダンサー達を取材することでピナや、その作品世界を浮き彫りにしているのが面白い。)

ヴェンダースのドキュメンタリー映画「踊り続ける命」は、ピナ自身が監督したこの映像作品、「嘆きの皇太后」と共通する部分が多い。しかし3Dの発想や、面白さ、メジャーな映画化の嬉しさもあったが、どこか美しいフレーム内の事柄で、想像できる範囲内の「ダンス」に止まっていた。
生のピナの舞踊は、あの映画とは全くの別物と言っていい。(ヴェンダースの映画だけを見る人も多いと思うので、念のため。)もっともっともっと荒々しく、すべてのルールを超えて、芸術という言葉さえも無邪気に破壊して、生きている意味を突き付けられるような体験だった。是非、ピナの死後も、ほぼ毎年来日している、ヴッパタール舞踊団の公演を見に行っていただきたい!

この作品は、ヴェンダースの様な技術的な高度さが無い分、足りないものが無垢さとなり現れている気がする。
また、ピナがナマモノである舞踊を、映像として記録したいと思ったのか、それとも有り余る実験精神から挑戦したのかはわからないが、結果的に映像として大成功とは言えないながらも(だからのちに、ヴェンダースの力が必要だったのだろう)、舞踊の表現の仕方と、根本的な印象の違いについてとても良くわかる作品になっていた。

ピナによる/ピナについての映画一覧(Pina Bausch Foundationサイト)
http://www.pinabausch.org/en/pina/filmography
全部見てみたい。
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