クロスケ

友だちのうちはどこ?のクロスケのレビュー・感想・評価

友だちのうちはどこ?(1987年製作の映画)
4.6
【再鑑賞】
極めてシンプルな物語でありながら、本作には到底、言葉では説明しがたいサスペンスが張り詰めています。
ノートを届けたいと訴えるアハマッドと母親のやり取りを、丘に伸びるジグザグの道を駆け登るアハマッドの姿を、彼が彷徨い歩く夜の闇を我々は息を飲んで見つめることになるでしょう。

ラスト近く、宿題をするアハマッドを横からのアングルで捉えている。すると、奥に見えるドアが突風によって勢いよく開く。その向こうには風に煽られる洗濯物とそれを取り込む母親の姿、そして深い夜の闇。その光景をジッと見つめるアハマッド。
きっと、彼は世界に存在する矛盾や得体の知れない恐怖を初めて感じたのかもしれません。そして、それを知った彼は確実に学校の友人たちの誰よりも早く大人になるための一歩を踏み出しています。

おそらく、本作を観た多くの人は、アハマッドのあどけない表情と澄んだ眼差しに安心して「純粋」で「無垢」な「心暖まる」映画として好意的に受け入れるでしょうが、事態はそんなのどかな論調をまるっきり越えてしまっています。あどけないと思われた彼の表情は映画が進むにつれて、儚さと不安を帯びているし、眼差しは澄んでいますが、その眼差しは映画を観ている人間の期待するものとは別のものを見つめています。
その事実に気付いたとき、この作品は「心暖まる」映画では決してなく、身震いするような生々しい映画だと呟かざるを得ないのです。

それにしても、鶏の鳴き声がすごい。
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