素直に面白かった。これはもう面白かったと言う外ないであろうという『帰って来たドラゴン』でした。これはもう香港映画の全てが凝縮されていると言ってもいい作品だったんだじゃないかな。
そう本作は香港映画です。香港映画で『帰って来たドラゴン』とかいうタイトルだったら、すわブルース・リーか!? と思う人も多いかもしれないが本作の主演はブルース・リャンです。何その人…ブルース・リーのバッタもんみたいな名前じゃん…と思われるかもしれないが、ブルース・リャンは70~80年代の香港カンフー映画を牽引した凄い人なんだぞ!! とここに声を大にして言っておきます。最近だと香港カンフー映画の黄金時代を彩ったスタントマンたちのドキュメンタリー『カンフースタントマン 龍虎武師』でも最重要人物の一人として出演していた。リーやジャッキーなんかと比べたらそりゃ華はなかったかもしれないがかつての香港カンフー映画には無くてはならない存在なのだ。
まぁそんなブルース・リャン主演の『帰って来たドラゴン』なのだが、観た人は分かると思うが1974年の映画の2Kリマスター版とはなっているもののその画質というのは、これ劇場で金取って上映するにはギリギリアウトかギリギリセーフかの境界線上にあるなぁというくらいの視聴するには限界に近い画質なのである。一応上映前にお詫びでもないだろうが前もって画質に対する説明が字幕で流れるのだが、何でも本作のネガは消失してしまったため今回の上映に際して監督ウー・シーユエン所有のデジタルマスターを基に上映素材を作ったとのこと。デジタルマスターと言えば聞こえはいいが実物を見るにおそらくこれはVHSから起こしたDVDがマスターになっているに違いない。アップになったら普通に細部が潰れてたりするもん。まぁそれでもリマスターといえばリマスターなので噓とか詐欺とかそんなことを言うつもりは毛頭ないが、これは上映後に劇場や配給会社に対して画質に文句を言う客が出てきてもまぁしょうがねぇかなぁ~、くらいには思ってしまう。それくらいに映像の質は悪い映画であった。
しかし! しかしだ! 映像の質は確かに最悪レベルではあるのだがその低画質で描かれている作中のアクションやバトルのキレというのは、これで金取っていいのかよレベルの画質を相殺して余りあるものだったのである!! 要するに面白い! 面白い映画でしたよ『帰って来たドラゴン』は!
お話は大したことがない。まぁ香港カンフー映画でお話が凄く良く出来ているものなんてほぼない(俺は見たことないけど香港映画を全作品見たわけではないので“ほぼ”としておく)ので本作が特別にストーリーの出来が悪いというわけではないのだが、まぁ撮りたいアクションシーンありきの脚本で大した物語ではないのである。どんなお話だったかな~と思い出そうとしてもイマイチ覚えていないのだが、何かブルース・リャン演じる主人公は流れ者の用心棒的な感じで序盤2人の悪党をやっつけて舎弟にするのだが、その後辿り着いた村で女性賞金稼ぎのイーグルと共になんかデカい真珠を巡る争奪戦に巻き込まれる。その真珠を奪おうとする悪い奴の刺客として倉田保昭もやってきて激しいバトルが繰り広げられる…というもの。
まぁぶっちゃけそんなのはアクションシーンを撮るための舞台設定に過ぎない。なんか中盤は真珠を巡ったコンゲーム的な展開もあったが多分そんなに凝ったものではなかっただろう。まぁその辺寝ていたから知らないのだが…。しかし中盤はともかく前半と後半のアクションはとんでもなく凄かったですよ。先日『デッドプール&ウルヴァリン』の感想文でCGとかVFXで彩られたアクションが派手で楽しいけど予定調和感も凄かった、と書いたが本作では綿密な打ち合わせはしているのだろうがアクションに予定調和感などは一切なく最後まで緊張感のあるバトルが展開されたのが素晴らしかった。もちろんCGやVFXなどの映像的修飾はほぼない。
もうそれだけで面白いとしか言いようないよ。後半にある建物をフルに使っての追いかけっこしながらのバトルなんて長尺でたっぷりと緊張感のある駆け引きを見せてくれるからね。リアルかどうかでいうとどう考えてもリアルではないアクションとかもあるが、そんなの気にならないくらいに次から次へと創意工夫のある色んなアクションを見せてくれるのである。当然一歩間違えば大怪我するようなアクションばかりだ。ジャッキーなんかもよくやってたが、細い通路で両足を大きく広げて壁を登ってくアクションとかは本作でもあるのだが、ブルース・リャンと倉田保昭がお互いに壁の高いところまで行ったらそこで拳を打ち合ったりするからね。そのシーンを目の当たりにして、いやそんなとこで戦わんだろ…と思うのは無粋ってもんですよ。そのシーンを撮れる、俺たちならやれる、と思ったのならやってしまう。それが香港映画ですよ。
そして本作はそういう香港映画の魂とでも呼ぶべきものが随所にあった。いやそれしかなかったと言ってもいいのではないだろうか。そんなもんはもう面白い! としか言いようがないよ。画質とかどうでもいいんだよ。もちろんストーリーもどうでもいい。できると思った面白いシーンを実際にやっちゃうというのがやっぱ香港映画の醍醐味ですね。それも『デッドプール&ウルヴァリン』みたいに映像作品として作り上げるのではなく(もちろんそれもすごいことなのだが)実際にそのアクションをやっている人をちゃんと撮るということが凄いですよ。かつての香港映画の凄さってやはりそういうとこだよなー、って思いましたね。
本作のラストシーンもフィルムが無くなったから、はいもう終わりまーす、て感じでラストシーンになったんじゃないかなと邪推してしまうような、あまりにもざっくりとした終わり方なのだがそれがむしろ「これが香港映画だ!」と断言してしまいたくなるような感じでグッときてしまいました。そういう映画でしたよ『帰って来たドラゴン』は。
もうね、超面白かったです。最高。画質の件も含めて誰にでもオススメできるってわけではないが、興味ある人ならきっと楽しめるだろう。
あと今気付いたけど本編だけじゃなくてフィルマークスのサムネも画質ガビガビじゃないか!!