映画漬廃人伊波興一

ザ・ロイヤル・テネンバウムズの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

4.1
絶対に叶うはずもない出会いのエピソードが、一本の映画と、一人の映画作家の作品群を通して綴られる。
そんな無念の呟きが零れ落ちて仕方ありません。

ウェス・アンダーソン
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』

1892年生まれのエルンスト・ルビッチと、1903年生まれの小津安二郎。
存命なら128歳と117歳のこのふたりが、時代的な、あるいは空間的な隔たりを軽々超えて21世紀の今、出会っていれば、いかにも楽しげにウェス・アンダーソン作品について語り合っていたに違いない。

小津安二郎が『グランド・ブダペスト・ホテル』の背後にルビッチへの尽きぬ敬意を探り当て、ルビッチが『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』を観て孫よりも若い世代のこの監督がいかに日本の小津に狂った青年時代を過ごしてきたか察知する。
その共感が一層ふたりを強く結びつけ、しまいにはこの若造は一体俺たちふたりのどちらを目指して映画を撮ってるのか?と議論に発展し、やがてオレだろう、いやオレに決まってるさ、などと言ってそうな気がしてくるのです。