60年安保の喧騒をひとりのニヒリスティックな学生の視点で無化したような、かなり挑戦的ともいえる作品。全学連のトロツキストどもをバカにしてブタ呼ばわりし、自らはヒトラーに密かに憧れて最後は暴力闘争にひとり向かう姿は幾重にもひねくれているが、脚本が寺山修司なのか。今なら何となくアホリベラルの中にいながら、当然そんなところに居場所はなく、同年の山口二矢のような個的テロリズムに走る幅の広さとでも言うか。さすがの伊藤雄之助の悪徳さが際立つが、ああいう豪胆で意地汚い保守議員こそが日本の伝統である。しかし進行中の政治的動乱をその最中に映画にしてしまう行動力は今のお花畑日本映画では到底無理だ。
なお在日朝鮮人キチガイボクサーの一連のシーンは異様で見もの。岩下志麻のデビュー作らしいが、映画内のキャラとしてはひとり浮いている。伊藤の妾になるのを姉ではなく岩下にすればよかった。