歌って踊る娯楽作のイメージが強いインド映画だけど、1950年代にも娯楽要素を排した芸術映画が少数だけど存在していた。
この映画はまさにそれ。
松岡環さんの日本におけるインド映画の受け入れの歴史研究を読むと、1970年代にサタジット・レイ監督作が立て続けに日本で公開され、好評を博したんだとか。
なのでその時の日本でのインド映画のイメージは歌って踊るというより、こういう芸術映画的なイメージだったのかもしれない。
この映画は今で言うとケン・ローチ監督作のような、低所得者家庭の苦悩を描く。
旦那の稼ぎが悪く、生活のために働きに出る奥さんが主人公。
働くのが楽しくなり、しかもセールスの才能を開花させるけど、義父や義母からは反対され、息子はへそを曲げられる。
しかも稼ぎが多くなってくると、夫が自分の立場がなくなってきて仕事辞めろと言い出す。
元はと言えばあんたの稼ぎが悪いからでしょうに。
しかし日本では銀行員といえばエリートなのに、インドでは薄給だったのね。
ダブルワークしても足りないくらいだとは。
そして家族や同僚、社長などの間で板挟みになりつつも、自らの信念を曲げない主人公を応援したくなる。
1963年の映画だけど、女性の社会進出とその障壁を脚本に落とし込み、きちんとした家族ドラマ、人間ドラマに仕上げたサタジット・レイ監督。
さすがインド映画の巨匠と言われるだけのことはある。