H.P.ラヴクラフトの世界観と、おぞましい魚人の姿を楽しむ映画。
恐怖やゴアはほぼない。ほとんどのシーンを主人公の逃走劇が占めており、どうやら原作には近いようだ。私は覚えていないが。
ゆえにやや退屈と感じるかもしれないが、そもそもH.P.ラヴクラフトの小説は修飾語が多く、翻訳もそれにならっているので読むのに苦労する。私はした。本作はそのあたりも原作に忠実と言えよう。良くも悪くも。
おじいさんが生きたまま皮を剥がれるシーンがあり、まあまあ悪くない。
だが、それを出すならダゴンの登場時間を増やしてほしかった。見えたのはほんの一瞬。この神の姿を見るために耐えた90分なのだから。少々残念。
蛸王女はよかった。ぬめぬめした蛸脚もよかったが、美しいのにインスマウス面なのが私の胸を満たしてくれた。よきキャスティングだった。
主人公が己の宿命を受け入れるラストは美しかった。イハ=ントレイの入り口は遺跡のようで荘厳だし、なにより「深きものども」として生きようという覚悟の表情が清々しいと感じた。
己は是、他は非とする考えに一石を投じた物語。その教えは現代でも充分通じるだろう。
ダゴン様もっと見たかった。