チッコーネ

天使の恍惚のチッコーネのレビュー・感想・評価

天使の恍惚(1972年製作の映画)
3.7
学生運動の熱に浮かされたのち、テロ集団に参加した若者たちのカタストロフィを描くATG映画。
ピンク映画に活路を見出してきた監督ゆえ濡れ場は多いが、撮り方がアーティスティック。
同時に生々しい相克の息遣いも伝わってくる。

本作公開の数年前には全共闘の武力闘争、公開年にはあさま山荘事件、そして数年後には東アジア反日武闘戦線による連続企業爆破テロ事件が発生している。
さらに日本赤軍は70年代から80年代まで世界を舞台に、テロ活動を展開していた。
共産主義に端を発し、過激化した新左翼イデオロギーへ傾倒する当時の若者たちは潔癖で、いびつな正義と血気に満ちていたのだ。

2020年代も半ばを過ぎた現代を生きる若者たちの目に本作は、遠い異国の物語のように映るかもしれない。
しかし当時を知る日本人の多くはまだ、存命である。
たかが数十年前の、日本国内の風景なのだ。
拝金を前提とした競争に進んで参加する近年の若者気質より、偏った思想と奇妙な使命感に囚われた、うぶで高学歴なテロリストたちの方がまだ、理解しやすい。
少なくとも私にとっては。
そう感じられたのも、監督の客観的な視点と理解、そしてある種の憐憫が、作品内に反映されているからであろう。
音楽はジャズ。
シンガーの顔を白飛びさせるほどきついピンスポットが充てられたライブ場面の楽曲はややフォーク調なれど、みじめたらしい叙情は皆無、乾いて普遍的だった。