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マレーナのkyのレビュー・感想・評価

マレーナ(2000年製作の映画)
3.2
美しく男を惹きつける魅力のあるマレーナを、群集心理によりシナジー的に表現された虚構がもたらした恐怖。ビジュアル的にホラー要素があるわけではありませんが、群集心理による恐怖体験が、この映画にはありました。

シチリア島に住む12歳の少年レナートの視点から写る、戦争という混沌の時代や思春期を境に女性への憧れを描いた作品。彼の住む島へ移住してきたマレーナに彼は淡い恋心を抱くようになります。しかし彼女を妬み暴言を吐く街の人々。エスカレートしていく言動によって虐げられる彼女を待ち受ける未来とは、、。って感じの物語です。

「シューシネマパラダイス」で有名なジュゼッペトルナトーレ監督の作品です。
主演のモニカベルッチが世界的に評価され始めたのも今作がきっかけだそうで、それも頷ける程。そのビジュアルで惹きつけるカリスマ的な美しさは勿論、それが故に嫉妬をかう姿が腑に落ちてしまうのが怖い。
これ程男性にチヤホヤされれば街の女性が狂うのも納得してしまいます。そして群集心理はネガティブな物事ほどほど肥大化させてしまう事も上手く描かれていました。

政治思想ファシズムの構築によってムッソリー二政権が誕生した1940年が舞台です。街並みの再現が非常に凝っているように感じます。マレーナの歩く道なんかは素晴らしい。
レナートが自転車を買ったその日からイタリアはイギリスとフランスに宣戦布告し戦争が始まります。ただ自分の戦争の印象というのは、貧しさがもたらすものであって戦争によってそれがさらに悪化するというイメージ。今作では少年にも関わらず自転車やレコードなんかを持っていて経済的な貧しさは感じませんでした。歴史の知見が浅はかなので断言は出来ませんが、1940年という時代において物的にこれ程満たされているにも関わらず戦争というのも少し違和感を覚えました。

戦争への参加を喜ぶ人々は何を思ってそう歓喜していたのか分かりません。これもまた群集心理なのでしょうか。

群衆のネガティブな物事ほど大きくなるという現象は恐怖でありながら、実に人間的であるようにも思います。揶揄的表現をすれば、これは今も健在です。良い事にもっとシナジー的になれれば良いのですが、人の心がもたらしたものは愛や勇気の様なポジティブなものよりも、憎悪や虚構なのかもしれません。悲しくもありますが現実を見ればそう思わざるを得ないのも事実です。

いくら映画とはいえ、進行している人の像を叩き落とす、折るというのは過激です。戦争がもたらすネガティブなものを効果的な演出ともとれますし、それほど鬱憤が溜まっていたというのもわかりますが、道徳的に良くないのでは、と思ってしまいます。

レナートが12歳ということもあり、女性への感情を窃盗やストーカー的な行動で表現しているのも巧いとは思いつつ犯罪的行動では有ります。
しかし、そんなレナートがどうにかマレーナに近づくため、大人らしく振る舞おうとする姿は愛らしい。
そして言葉で伝えれるようになったレナート。そんな彼の成長のお話であるようにも見てとれました。
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